研究課題
申請者は今年度、ヒト大腸がん検体より大腸がん幹細胞の特性を有する細胞の継代培養が可能となるスフェロイド培養法を確立し、スフェロイド中のCD44陽性細胞が「がん幹細胞」としての形質を有する事を明らかにした。一方、CD44陰性細胞は「幹細胞性」を失ってはいるが、CD44陽性がん幹細胞に脱分化する能力を持つという予想外の発見をし、論文発表した(Ohata et al., Cancer Res. (2012))。現在、ヒト大腸がん幹細胞における「幹細胞性」及び「CD44発現制御」のメカニズムとその生物学的な意義を解明するために、下記の二項に取り組んでいる。1. CD44による「幹細胞性」維持に働く遺伝子群の同定:CD44による「幹細胞性」維持のメカニズムを詳細に解析するために、CD44によって制御される下流遺伝子を探索している。フローサイトメトリーを用いて、スフェロイド細胞をCD44陽性細胞と陰性細胞に分離後、CD44陽性細胞と比較してCD44陰性細胞で発現減少している遺伝子を、DNAマイクロアレイを用いて解析した。現在、CD44に対するshRNAを導入したスフェロイド細胞を作製中であり、コントロール細胞と比較してCD44ノックダウン細胞において発現が減少している遺伝子を、DNAマイクロアレイを用いて探索する予定である。2. 大腸がん幹細胞におけるCD44発現制御機構の解析:申請者は、CD44の発現誘導が大腸がん幹細胞の維持に重要である事を見出した(Ohata et al., Cancer Res. (2012))。そこで現在は、CD44の発現制御機構を解析しており、CD44の発現が転写後レベルで制御されている事が明らかとなってきた。一つは、マトリックスメタロプロテアーゼによるCD44の分解制御であり、もう一つはPTEN-Akt-mTOR経路によるCD44の翻訳制御である。
2: おおむね順調に進展している
今年度は論文の投稿に時間を要したため、達成できていない部分も多少あるが、概ね順調であると考える。その理由は以下の通りである。「CD44による「幹細胞性」維持に働く遺伝子群の同定」に関しては、CD44陽性細胞と比較してCD44陰性細胞で発現減少している遺伝子を、DNAマイクロアレイを用いて解析した。一方、コントロール細胞と比較してCD44ノックダウン細胞において発現が減少している遺伝子も、DNAマイクロアレイを用いて探索する予定であったが、現在CD44ノックダウン細胞を作製中であり、やや遅れていると考える。「大腸がん幹細胞におけるCD44発現制御機構の解析」に関しては、マトリックスメタロプロテアーゼによるCD44の分解制御とPTEN-Akt-mTOR経路によるCD44の翻訳制御が重要である事が明らかとなったので、大きく進展していると考える。
「CD44による「幹細胞性」維持に働く遺伝子群の同定」に関しては、CD44ノックダウン細胞を作製し、コントロール細胞と比較して発現が減少している遺伝子を、DNAマイクロアレイを用いて解析する予定である。CD44ノックダウン細胞とCD44陰性細胞で共通して発現減少している遺伝子群を、CD44の下流遺伝子の候補とする。更に詳細な解析を進める。「大腸がん幹細胞におけるCD44発現制御機構の解析」に関しては、RNAi法によりCD44の分解に関与するマトリックスメタロプロテアーゼの特定を試みる。一方、PTEN-Akt-mTOR経路によるCD44の翻訳制御に関しては、大腸がんにおける意義を検証する予定である。具体的には、スフェロイド細胞、マウス皮下腫瘍モデル、ヒト大腸がん組織等を用いて、CD44の発現とPTEN-Akt-mTOR経路の活性化との相関を免疫染色等により検討する。また、AktやmTORに対する阻害剤がスフェロイド細胞による腫瘍形成を抑制する可能性をマウス皮下腫瘍モデルにより検証する。
該当なし
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Cancer Research
巻: 72 ページ: 5101 5110
10.1158/0008-5472.CAN-11-3812