研究課題
ホスファチジルイノシトール3リン酸(PI3P)を生成する酵素であるクラスIII PI3K (Vps34) は,心筋での遺伝子発現が高いにもかかわらず,これまで心臓での生理的機能は不明であった.われわれは独自に筋特異的PIK3C3遺伝子欠損 (KO) マウスを作製し,Vps34の心筋での生理的機能を明らかにし,心疾患発症の新たな病態の解明へとつながる知見を得た.KOマウスは顕著な心肥大,心収縮機能不全,心室性不整脈を来たし全例が突然死した.KOマウス心筋中のPI3P量は低下し,心筋細胞にオートファゴソームの蓄積を認めた.KO単離心筋細胞は肥大し,タンパク質の蓄積を認めた.心筋のプロテアソーム活性は正常だったが,リシン(K)48ポリユビキチン化タンパク質とK63ポリユビキチン化タンパク質が共局在して蓄積していた.さらに,心筋様細胞株でVps34の発現をRNA干渉を用いて抑制したところ,Endosomal sorting complex required for transport (ESCRT) system に含まれる分子の局在変化が認められた.以上から,Vps34はESCRT system 中の分子の局在の制御を介して,K63ポリユビキチン化タンパク質の小胞輸送にも関わることが示唆された.われわれは,Vps34欠損心筋でのタンパク質の蓄積は,このK48とK63ポリユビキン化タンパク質の凝集が亢進するためと考えている.特定の心肥大を合併するヒト心疾患の心筋組織でも,Vps34発現の低下を伴ってKOマウスと同様にK48とK63ポリユビキン化タンパク質の蓄積が観察されたことから,Vps34はヒトの心疾患の発症にも関与することが示唆された.
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