研究概要 |
大動脈瘤・解離は慢性炎症により進行する病態であるがその機序は未だに不明な点が多い。我々はアンジオテンシンII依存性の転写因子であるkruppel-like factor 6(KLF6)欠損マウスにおいて、塩化カルシウム刺激とアンジオテンシンII持続投与により大動脈瘤・解離が著明に進行していることに注目した。この新たな大動脈瘤・解離のモデルを用いて、マクロファージの蓄積が病態形成の主な原因であり、KLF6による炎症反応の制御機序としてはgranulocyte macrophage colony-stimulating factor (GM-CSF)が標的であることを明らかにした。具体的にはマクロファージにおけるGM-CSFの発現および分泌の上昇がIL-6を介する炎症反応を惹起することである。さらに、マクロファージ特異的なKLF6欠損マウスにおいて大動脈瘤・解離の形成がGM-CSFの中和抗体の投与により抑制されることや野性型マウスにおいて塩化カルシウム刺激とアンジオテンシンII持続投与とともにrecombinant GM-CSFを投与すると大動脈瘤・解離が進行することからGM-CSFが大動脈瘤・解離において重要であり、必須であることを明らかにした。 また、急性大動脈解離の患者さんの血中GM-CSFが冠動脈疾患や健康者に比べ高い数値であることや病変においてGM-CSFの発現が局所で上昇していることから動物モデルで検証した機序が臨床でも応用できる結果であることを示すことができた。これらの実績から大動脈瘤・解離形成においてIL-6による慢性炎症にはGM-CSFが重要な役割を果たすことがわかった。さらにGM-CSFの発現および分泌はKLF6により制御され、この経路が破綻することでIL-6を介する炎症反応が惹起され、大動脈瘤・解離形成が進行する新たな機序を見出した(Son BK, et al., Granulocyte macrophage colony-stimulating factor is required for aortic dissection, Science Translational Medicine投稿中)。
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