研究課題
高齢化社会に伴って加齢とともに増加する虚血性心臓病や脳梗塞などの動脈硬化性疾患の有病率、死亡率は増加の一途をたどり、これらの疾患の発症予防は急務である。動脈硬化は、耐糖能異常・高血圧・脂質代謝異常などの危険因子が偶然に重なったものではなく、その基盤病態としての肥満症によって引き起こされるものである。内臓脂肪の肥満は、脂肪組織炎症・機能異常を来し、アディポカインと遊離脂肪酸の分泌異常から全身の代謝障害をもたらすことが知られているがその分子メカニズムには未知の部分が多い。肥満、すなわち脂肪組織の増大は、脂肪細胞の肥大化(hypertrophy)と、脂肪細胞数の増加(hyperplasia)の2つがリンクして起きる現象である。肥満症において、脂肪細胞肥大と脂肪細胞の増殖分化がどのように関わり合い、脂肪組織炎症、ひいては機能異常を来しているのかに関しては、まったく知見が得られていない。そこで我々は、新たな研究の糸口として、脂肪細胞の増殖に注目した。脂肪細胞数の増加は脂肪幹細胞が増殖分化することによって新たな脂肪細胞が作られる現象と考えられる。本研究において、我々は、肥満病態では、脂肪幹細胞が脂肪細胞に分化する際に、一部は脂肪細胞に分化するが、過半数は脂肪細胞に分化せず、MCP1の発現レベルの非常に高い細胞;APDP(adipocyte progenitor derived pro-inflammatory cells)へと変化し、新規脂肪細胞周辺に単球を呼び寄せることによって血管新生を促し、脂肪細胞新生を完成させているということを見出した。肥満病態においては、APDP細胞によって過剰に呼び寄せられた単球が炎症性のマクロファージへと変化し組織炎症を惹起していると考えられる。本研究により、脂肪組織の増殖と脂肪組織炎症という全く新しいメカニズムが明らかになったと考えている(投稿中)。
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Arterioscler Thromb Vasc Biol
巻: 33 ページ: 2596-607