前年度の解析の結果、マクロファージサブクラス間のクロマチン状態における違いが乏しいことが明らかとなった。その一方で、炎症刺激後の応答において炎症惹起および終息期に於いて炎症応答の早期において炎症性サブクラスから抗炎症性サブクラス様への表現型の遷移が起こることが知られており、それに伴いNFKBサブクラスのスイッチングが起こっていることが示された。NFKBファミリーの一つであるp50は炎症応答早期においてp65と共通した標的に結合する一方で炎症終息期においては特異的標的を持つことを見出した。炎症収束期に於けるp50特異的標的遺伝子についてGene Ontology解析を行ったところ代謝関連遺伝子が標的遺伝子に含まれていた。以上のことからp50は炎症応答に伴う代謝制御に関与している可能性が示唆された。この結果をもとに野生型およびp50ノックアウトマウス由来のマクロファージを用い、炎症刺激後の細胞内代謝を細胞外フラックスアナライザーにより検討を行った。野生型では、炎症刺激により一過的に解糖およびミトコンドリアによる好気性呼吸の上昇後、炎症終息期ではミトコンドリア活性が停止し、解糖系への代謝シフトが観察された。一方、p50ノックアウトマクロファージにおいては、ミトコンドリアの活性低下は見られる一方で解糖系の活性上昇は観察されなかった。また、ミトコンドリア数の検討を行ったところ野生型およびp50ノックアウト間で差がないことからp50は、ミトコンドリアにおける好気性呼吸から解糖単独への代謝シフトにおいて解糖の活性化に寄与していると考えられた。すなわち、我々の研究の結果から「p50は炎症関連遺伝子の発現制御のみならず、細胞内代謝を制御することにより炎症を制御する」という新しい機能を有する可能性が示唆された。今後、炎症終息期におけるp50による代謝制御について検討していきたい。
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