研究課題
本研究課題の目的は、マイクロRNAの動脈硬化形成における役割を解明し、その機能制御による新規治療法の開発へと結びつける事である。申請者らはSREBP-2のイントロン16に存在するmiRNA-33がHDL-C形成を負に制御する事を報告した(Horie T, et al. Proc Natl Acad Sci U S A.2010)。HDL-C値は心血管イベントおよび心血管死の発症と逆相関を示し、動脈硬化はこれらの主たる原因の一つである。本研究では、miRNA-33と動脈硬化の関係を明らかにし、既存の治療法とは全く異なる機序を介した新規の動脈硬化予防法・治療法の開発を目指す。本年度は、動脈硬化形成におけるmiR-33の役割につき検討を行った。miR-33・アポEダブル欠損マウス作製し、アポE欠損マウスと比較を行った。ダブル欠損マウスは25%の血中HDL-C増加を示した。動脈硬化性病変、病変内脂質含量、病変内のマクロファージ浸潤はダブル欠損マウスで低下を示した。ダブル欠損マウスから採取した腹腔内マクロファージはコレステロール輸送蛋白ABCA1およびABCG1の発現上昇、アポA-IおよびHDL-Cに対するコレステロール引き抜き能の増加を示した。マクロファージ内のmiR-33欠損の影響を生体で検討するため、骨髄移植実験を行った。ダブル欠損マウスの骨髄を移植したアポE欠損マウスは、アポE欠損マウスの骨髄を移植したアポE欠損マウスと比較し、血中HDL-Cは同等ながら、動脈硬化病変の抑制傾向および病変内脂質含量の低下が認められた(Horie T, et al. J Am Heart Assoc. 2012)。 これらの結果から、miRNA-33の抑制はは血中HDL-Cの上昇、マクロファージのコレステロール引き抜き能の増強を介した動脈硬化に対する新たな治療戦略の一つになりうると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度は病態解明のためマウスモデルを用いたmiR-33の機能解析を行う予定であったが、上記のとおりmiR-33の動脈硬化における機能解析を行い、学術誌に報告することができた。
平成25年度は当初の予定通り下記の研究計画を遂行を目指す。①miR-33インヒビターによる抗動脈硬化作用の検討miRNAの機能制御には様々な方法が用いられる。我々は、すでにmiR-33と相補的な配列をレンチウイルスベクターに組み込んだmiR-33デコイ遺伝子の作成を行い、実際にこのベクターが細胞実験で、miR-33の機能を抑制することを確認した。このウイルスベクターをアポE欠損マウスに導入することにより、miR-33の機能抑制による動脈硬化の進展程度および血中の脂質プロファイルを評価する。特定のmiRNAの機能を抑制することのできる修飾RNAプローブも市販されており(Dharmacon社;Antagomirプローブ、Exiqon社;LNAプローブ)、これらの静脈内投与を行うことにより同様の実験を組み立てることも可能であるので、ウイルスベクターによる生体への遺伝子導入が困難な場合にはこれらの使用も考慮する。②動脈硬化疾患患者における血中miR-33レベルの検討マイクロRNAは血中をエキソソームと呼ばれる脂質二重膜で囲まれた小粒子の中で安定に存在し、癌をはじめとした疾患マーカーになりうることが明らかとなってきた。本研究では、動脈硬化性疾患患者において血中miR-33レベルがどのように関わるかを調べる。「心血管疾患患者における血中バイオマーカーおよびRNA発現レベルと病態との関連の検討(ヒト遺伝子解析承認番号G-322)」は既に倫理委員会で承認され、現在、京都大学病院循環器内科への入院患者を中心として症例を増加させている。
消耗品や分子生物学キットなどの物品費に対して約800000円、学会発表などの旅費に対して約200000円、人件費・謝金に対して約100000円、その他、京都大学動物事件施設でのマウス飼育費などに約500000円を予定している。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (7件) 備考 (1件)
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http://kyoto-u-cardio.jp/