研究課題
若手研究(B)
ヒト多能性幹細胞由来の心筋細胞 (hESC/hiPSC-CMs) は、一般的に胎児性心筋細胞と類似し、成人の心機能とは異なる。本研究ではin vitroにおける機能的hES/iPSC-CMsの短期間での取得法の確立を目指す。これまでに浮遊培養は短期間で明確にhESC-CMsの心筋特異的遺伝子の発現誘導を引き起こすことから、接着培養条件下で化合物添加により浮遊培養を再現できれば、hESC-CMsの心機能の亢進・成熟へと繋がると考える。一般的に遺伝子発現の増強には、ヒストンのアセチル化が関与するクロマチンの活性化が関連するので、ヒストンのアセチル化レベルをimmunoblotting法にて確認した。その結果、明らかに浮遊培養において増強が認められた。従って、HDAC阻害剤が接着培養条件下におけるhESC-CMsのヒストンのアセチル化レベルを増強できるかを調べたところ、HDAC阻害剤で処理したhESC-CMsは、対照実験のDMSO処理と比べて、2.7倍の増強が認められた。また、実際に遺伝子発現を誘導できるかを定量PCR法で調べたところ、HDAC阻害剤処理群では心筋特異的な遺伝子のERG1bやKCNQ1、HCNの発現増強が認められた。次に細胞外電位(MEA)を用いて、hESC-CMsの電気生理学的な機能を解析した。分化誘導間もない未成熟なhESC-CMコロニーは、hERGチャネル阻害剤であるE4031に対してQT延長や頻脈などを示し、その応答性は同質ではなかった。これらをHDAC阻害剤で処理すると、すべてのhESC-CMコロニーにおいてQT延長が認められた。このように、HDAC阻害剤の処理により、同質で機能的なhESC-CMsを取得できることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
当初予想した様に、エピジェネティックを制御する化合物の添加は、hESC-CMsにおいてヒストンのアセチル化レベルを増強し、心筋特異的遺伝子の発現を増加させることを明らかにした。つまり、エピジェネティックの制御は、接着培養条件下で浮遊培養の効果を再現できた。また、心筋特異的遺伝子の発現増加に伴い、hESC-CMの機能に関しても同様に増強でき、同質な機能細胞を獲得できることを明らかにした。従って、エピジェネティックを制御することで、長期再接着培養を介さず機能的hESC-CMsを取得可能であることを示唆できたことから、おおむね順調に進展している結果である。
平成24年度に引き続き、化合物による心機能亢進に関する解析を定量PCRやMEA測定法を行う。特に、MEA測定に関しては再現性を確認し、他のチャネル阻害剤に対してもin vivoを反映した適正な薬剤応答性を示すかを検討する。また、より効果的な化合物があるかスクリーニングを行い、エピジェネティックな制御が機能細胞の取得に重要であることを示す。さらに、得られた結果と現在開発中であるヒトES細胞およびヒトiPS細胞の大量培養法と組み合わせることで、機能細胞の移植に必要な細胞数の獲得を試みる予定である。
ヒトES細胞の培養や分化誘導に必要な培地や試薬、培養器材、さらに遺伝子発現解析の為の試薬類の購入に充てる。また機能細胞の評価用のMEA解析の為に、必要なチャネル阻害剤や器材を購入する。また、本研究課題に必要な情報を収集するために国内外の学会に積極的に参加するため、その旅費として使用予定である。
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PLOS ONE
巻: 7 ページ: e45010
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Cell Reports
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