研究課題/領域番号 |
24790755
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
尾辻 智美 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 研究員 (50564754)
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キーワード | 移植・再生医療 / ヒトES/iPS細胞 / 心筋分化 / 心機能 / 機能細胞 |
研究概要 |
ヒト多能性幹細胞由来の心筋細胞 (hESC/hiPSC-CMs) は、一般的に胎児性心筋細胞と類似し、成人の心機能とは異なる。本研究ではin vitroにおける機能的hES/iPSC-CMsの短期間での取得法の確立を目指す。 これまでに浮遊培養は短期間で明確にhESC-CMsの心筋特異的遺伝子の発現誘導を引き起こすことから、接着培養条件下で化合物添加により浮遊培養を再現できれば、hESC-CMsの心機能の亢進・成熟へと繋がると考える。一般的に遺伝子発現の増強には、ヒストンのアセチル化が関与するクロマチンの活性化が関連するので、ヒストンのアセチル化レベルをimmunoblotting法にて確認した。その結果、明らかに浮遊培養において増強が認められた。従って、HDAC阻害剤が接着培養条件下におけるhESC-CMsのヒストンのアセチル化レベルを増強できるかを調べたところ、HDAC阻害剤で処理したhESC-CMsは、対照実験のDMSO処理と比べて、2.7倍の増強が認められた。また、実際に遺伝子発現を誘導できるかを定量PCR法で調べたところ、HDAC阻害剤処理群では心筋特異的な遺伝子のERG1bやKCNQ1、HCNの発現増強が認められた。次に細胞外電位(MEA)を用いて、hESC-CMsの電気生理学的な機能を解析した。分化誘導間もない未成熟なhESC-CMコロニーは、hERGチャネル阻害剤であるE4031に対してQT延長や頻脈などを示し、その応答性は同質ではなかった。これらをHDAC阻害剤で処理すると、すべてのhESC-CMコロニーにおいてQT延長が認められた。また、いくつかのHDAC阻害剤を添加したところ、拍動数に対する応答性が異なることが認められた。従って、より効果的な化合物の同定により、エピジェネティックな制御がどのように機能細胞の取得に関与しているかを示唆できると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度までに、当初予想した様に、エピジェネティックを制御する化合物の添加は、hESC-CMsにおいてヒストンのアセチル化レベルを増強し、心筋特異的遺伝子の発現を増加させることを明らかにした。つまり、エピジェネティックの制御は、接着培養条件下で浮遊培養の効果を再現できた。また、心筋特異的遺伝子の発現増加に伴い、hESC-CMの機能に関しても同様に増強でき、同質な機能細胞を獲得できることを明らかにした。 本年度は、より効果的な化合物を同定する為に化合物のスクリーニングを行った。様々なHDAC阻害剤を添加したところ、拍動数に対する応答性が異なることが認められた。従って、定量PCR法を用いて、その効果の機能解析を行う予定であったが、実施に至らなかったので、やや遅れている結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に引き続き、化合物による心機能亢進に関する解析を定量PCRやMEA測定法を行う。特に、化合物により拍動数に対する応答性が異なることが示唆されたので、その再現性と効果的な化合物の特定解析を行う予定である。化合物を特定することで、エピジェネティックな制御がどのように機能細胞の取得に関与しているかを示唆できると考える。さらに、得られた結果と現在開発中であるヒトES細胞およびヒトiPS細胞の大量培養法と組み合わせることで、機能細胞の移植に必要な細胞数の獲得を試みる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
機能細胞の移植に必要な細胞数の獲得のため、最終的にヒトES細胞およびヒトiPS細胞の大量培養法と組み合わせることを考えている。現在この大量培養法の開発も同時に行っており、今回、このプロジェクトに関して大きな成果を得られたため、まとめる必要性があった。またこのプロジェクト開発の技術員のフォローに時間を必要としたため、本研究を予定通りに実験を進めることができなかった。従って未使用分が生じた。 引き続き、化合物による心機能亢進に関する解析するため、定量PCRやMEA測定法を行う。そのためのヒトES細胞の培養や分化誘導に必要な培地や試薬、培養器材、さらに遺伝子発現解析の為の試薬類の購入に充てる。また機能細胞の評価用のMEA解析の為に必要なチャネル阻害剤や器材の購入として使用予定である。
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