研究課題/領域番号 |
24790756
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
鷹見 洋一 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90621756)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | αシヌクレイン / 血管内皮機能 / eNOS / NFκB / メタボリック症候群 / 炎症 |
研究概要 |
我々はパーキンソン病の原因分子の一つαシヌクレイン(SNCA)が血管内皮に発現、分泌されていることを発見し、血中SNCA濃度は加齢及び高血圧やインスリン抵抗性の悪化に伴い低下することを見出した。マウスでも加齢に伴い血中SNCA濃度は低下し、SNCA 遺伝子欠損マウス(KO)ではメタボリック症侯群の表現型を呈した。以上よりSNCAが生理活性を有する液性因子または血管内皮に内在する機能分子として加齢に伴う生活習慣病、中でも糖代謝異常と高血圧の病態に関連している可能性が示唆された。 糖代謝との関連では、血中SNCAは脂肪細胞や骨格筋細胞においてインスリンレセプターとは独立してGab1-PI3K-Akt経路を介したGLUT-4によるグルコースの取り込みを促進し、その上流のSNCAレセプターとしてG蛋白共役受容体のsiRNAライブラリーによるスクリーニングにてLPAR2を見出した。 血管内皮機能についてはリコンビナントSNCA添加によりGab1-PI3K-Akt経路を介するeNOSの活性化作用やNO産生の増加及び共培養した血管平滑筋でのcGMP産生の増加を確認した。ex vivoでの検討でもSNCA KOの大動脈のアセチルコリンによる弛緩反応が減弱つまり、eNOS活性低下に伴うことが想定される血管内皮機能低下を認めた。動脈硬化モデルであるSNCAとApoEのダブルノックアウトマウスについて粥種形成を検討したところ、コントロール(ApoE KO)に比しその悪化を認めた。細胞老化との関連では、老化によりエクソソーム放出量の低下を認め、クリアランスの低下に伴う細胞内の凝集SNCAの含量が増加、NFκB活性の上昇を惹起することが分かった。また、内在するSNCAのノックダウンでもβ-gal活性の上昇やアポトーシスを認め、SNCAの機能低下が細胞老化や内皮障害に関連していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1) SNCAの血管内皮細胞におけるeNOS 活性化作用やNFκB活性抑制作用の分子メカニズムの検討に際して予想される分子との相互作用につき、24年度内に免疫沈降や免疫染色にて確認する予定であったが少し遅延しており現在検討中である。 2)SNCA KOにおける血圧上昇のeNOSの関与の検討についてSNCA KOにおいて認められた、血圧の上昇がeNOS活性低下によるものかを検討するために、野生型とSNCA KOにNOS阻害薬であるL-NAMEを投与し、差がなくなるかを観察する予定であったが、マウスの交配が予定通りにいかず、実験を行うに必要な匹数が得られなかった。現在交配を続行中であり、数か月内には終了できる見通しである。
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今後の研究の推進方策 |
1) SNCAのeNOS活性化作用について脂肪細胞と同様にSNCAのレセプターとしてLPAR2が関与するかをsiRNAを用いたloss-of-functionの系を用いて検討する。更に免疫沈降や免疫染色によりSNCAがリガンドとしてLPAR2に結合するかを確認する。 2) SNCAの脳以外で発現を認める血管内皮、赤血球、血小板について、どの組織由来のSNCAが血管内皮機能や血圧、代謝機能等に関与しているかを検討する。また、これらin vivoの検討においてはeNOSへの依存性を検討するためにL-NAME投与群も同時に設定する。i)脳:中枢神経系におけるSNCAの作用の検討のため、SNCA KOに脳特異的SNCA過剰発現マウス(THY1-SNCA Tg)を交配させることによる(作製済)rescue実験を行う。ii) 血管内皮:Cre/loxPシステムによる血管内皮特異的SNCA 遺伝子欠損マウス(作製中)を用いて、血圧の観察及びアセチルコリン負荷による血管内皮機能の検討及び血管内皮機能の変化に伴うインスリン抵抗性の評価を行う。iii) 骨髄:骨髄移植の系を用いて、野生型の骨髄をSNCA KOに移植あるいはSNCA KOの骨髄をWTに移植することで、血球由来の血中SNCAの血管内皮機能への作用を検討する。 3) 血管内皮特異的SNCA KOとApoE KOを交配して動脈硬化モデルマウスを作製し、血管内皮のSNCAの動脈硬化形成への関与を検討する。 4)一般集団及び高齢者を対象とした2つのコホート研究にてSNCAの血管機能や代謝機能への関与を明らかにし、血中SNCA(エクソソーム中の含量も測定)のバイオマーカーとしての臨床応用を目指す。当初の予定通り以下の2つの疫学研究を用いる予定である。i)一般集団:端野・壮瞥町研究(札幌医科大学第2内科との共同研究)ii)高齢者:関西健康長寿研究
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次年度の研究費の使用計画 |
1)SNCAのeNOS活性化作用とLPAR2との関連についての実験:LPAR2のsiRNAや免疫沈降や免疫染色で用いる抗体の購入費、細胞実験の消耗品(培地等) 2)動物飼育費、遺伝子改変マウス作成費、動物実験での消耗品や試薬、組織学的な検討で用いる抗体や消耗品 3)臨床サンプルの解析費:SNCAのELISAキットの購入費
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