研究課題/領域番号 |
24790756
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
鷹見 洋一 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90621756)
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キーワード | αシヌクレイン / メタボリック症候群 / 糖代謝 / 血管内皮機能 / 細胞老化 / 炎症 |
研究概要 |
本先行結果に基づき本研究では、パーキンソン病の原因物質であるαシヌクレイン(SNCA)の血管内皮機能や糖代謝機能への作用を明らかにし、更に老化に伴うSNCAの量的、質的低下がこれらに及ぼす影響やその重要な予後規定因子である心血管合併に繋がる可能性を基礎的及び臨床的検討の両側面より明らかにすることを目的としている。 以下に現在までの進捗概要を示す。 ①糖代謝:リコンビナントSNCA(rSNCA)投与は脂肪や骨格筋においてインスリンレセプターとは独立してGab1-PI3K-Akt経路を活性化、GLUT-4によるグルコースの取り込みを促進した。更に、G蛋白共役受容体siRNAライブラリースクリーニングにより上流の候補受容体としてLPAR2の可能性を見出した。また、SNCA KOはインスリン抵抗性を呈することをインスリンクランプ法にても確認した。インスリン抵抗に関連するメカニズムとしてrSNCAが脂肪細胞において飽和脂肪酸であるパルミチン酸によるPKC-θやNFκBの活性化を抑制することを確認した。 ②血管内皮機能:血管内皮ではrSNCA添加によりGab1-PI3K-Akt経路を介するeNOSの活性化を認め、血管内皮でのNO産生の増加及び共培養した血管平滑筋でのcGMP産生を増加させ、NFκB活性抑制作用も認めた。SNCA KOからの摘出大動脈はアセチルコリンによる弛緩反応の減弱を認め、eNOS機能低下に伴う血管内皮機能低下が考えられた。更に、SNCA/ApoEのダブルKOでは大動脈粥腫形成の悪化を認めた。また、血管内皮細胞にてSNCAをノックダウンすると細胞老化が起こり、eNOS、Sirt1の低下、p53の上昇を認めた。また、継代を繰り返した血管内皮細胞においてはエクソソームによる凝集SNCAのクリアランスの低下が示唆され、細胞老化に関与している可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)血管内皮細胞特異的ノックアウトマウスの作成が、予算やケージスペースの問題もあり途中で止まっており、予定通りに進んでいない。場合によってはTie2プロモーターにて内皮特異的過剰発現マウスの作成に切り替えることも検討している。 2)マウスの交配の問題で遅れていたL-NAME投与下でのマウスの血圧測定は現在施行中であり、6月に終了予定である。 3)脳特異的SNCAの過剰発現マウスが、原因は不明であるが、有意に死亡率が高く、実験に必要な数のマウスが得られていない。 4)血管内皮細胞に脂肪細胞にて同定したSNCAのレセプターLPAR2の発現を認めず、血管内皮細胞では他のレセプター、感受性分子の存在が想定される。よって、当初予定していたSNCAの機能解析としての血管内皮細胞でのLPAR2のloss-of-functionの実験は施行できず、血管内皮細胞にて再度、SNCAのレセプターの検索を行う必要性ができた。
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今後の研究の推進方策 |
1) 血管内皮細胞におけるSNCAのレセプターの再検索として、脂肪細胞と同様にGPCRのsiRNAライブラリーを用いて、Aktのリン酸化を指標にスクリーニングする。rSNCA(monomer)とエクソソーム中のSNCAの炎症や細胞老化への影響を比較する。 2) Tie-2プロモーターによる血管内皮特異的SNCA過剰発現マウス(Tie2-SNCA Tg)の作成への切り替え、更にApoEノックアウトマウスと交配し、動脈硬化モデルマウスでの解析。 Tie2-SNCA Tgを用いての血管内皮のSNCAの糖代謝への影響の検討。 3) SNCAはfatty acid-binding proteinにホモロジーが高く、脂肪酸への結合能を有するとの報告もあるため(PNAS, 2001)、放射性ラベルしたパルミチン酸とSNCAを混合し、SNCAで免疫沈降することでその結合を証明し、SNCAのインスリン抵抗性への関与を検討する。インスリン抵抗性にはマクロファージとの脂肪細胞とのクロストークが大きな役割を果たしているが、そこに関わる分子としてAIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage)があり、マクロファージの浸潤を誘導し、脂肪組織の慢性炎症ひいてはインスリン抵抗性を惹起することが報告されている(PNAS, 2011)。我々はマクロファージへのrSNCAの添加によりAIMの発現及び分泌が抑制されることを見出したため、マクロファージと脂肪細胞とのクロストークからの観点からの解析を行う。 4)臨床研究:一般集団(端野・壮瞥町研究)及び高齢者(関西健康長寿研究)を対象とした2つのコホート研究にて血管内皮機能、動脈硬化及び糖代謝の臨床パラメーターとの関連解析を行い、血中SNCAのバイオマーカーとしての有用性を検証する。フィールドワークを続行し、研究期間終了時に中間的な解析を行う。
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