研究概要 |
原発性肺高血圧症(PAH)では骨形成蛋白(BMP)2型受容体(BMPRII)遺伝子変異が発見されているが、肺高血圧症の発症・進展におけるこの変異の意義は未だ不詳である。我々は肺高血圧症(PAHおよび二次性肺高血圧症(SPH))の肺動脈血管平滑筋細胞(PASMC)増殖機序におけるBMPとPPARγの関連を明らかにすべく当院循環器内科と共同で検討を行った。 PAHおよびSPHの手術症例において、摘出肺組織から単離・培養したPASMCにおいてPPARα/γの発現を評価したところ、正常PASMCと比較したPPARγの発現レベルはSPHにおいてPAHよりも減弱していた。PDGFやET-1, BMPによるPAH PASMCの増殖促進作用はPPARγ添加で抑制された。BMP添加によりPAH/SPH PASMCでのPPARγ発現は抑制されたことから、BMPによるPASMC増殖作用にはPPARγの発現減弱の関与が示唆された。SPHに比べPAH由来PASMCで、ET-1・aldosterone・PDGFはPPARγ発現を低下させたので、PAHにおいてはPPARγ発現減弱が血管作動物質由来のPASMC増殖に関連している可能性が示唆された。 一方、PPARγ活性化によりPAH/SPH PASMCともに、BMP-1型・2型受容体の発現低下が認められ、BMPとPPARγシグナル間のフィードバック機構の存在が示唆された。BMP結合蛋白nogginによりPPARγ発現はPAHで増強・SPHで減弱し、SPHでは内因性BMPがPPARγ発現に寄与している可能性が示された。以上より、血管作動因子やBMP由来のPASMC増殖において細胞内PPARγ活性は基本的には増殖抑制的に働くが、その応答性はPAHとSPHで異なると考えられた。
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