研究課題
発作性心房細動に対する肺静脈隔離術の有効性はすでに確立したが、持続性心房細動対しての効果には限界がある。左房の拡大や線維化による心房筋のリモデリングが心房細動の持続に有利な環境となることがその理由とされるが、左房のリモデリングの進行を認めない症例、即ち左房拡大が軽度である患者(孤立性心房細動)においても持続性心房細動は発生する。そこで我々は、左房拡大の程度とは独立して、遺伝的背景が個々の心房筋基質の程度に関わっているとの仮説のもと、遺伝子多型解析を用いて心房細動患者における遺伝子背景の解析を行った。2010年から2013年の期間に当院で加療を行った心不全患者278名を対象とし、これまでに網羅的遺伝子解析のメタ解析にて心房細動との関連性が報告されている10種類のSNPの解析を行い、リスクスコア(GRS; genetic risk score)を算出した。GRSは各SNPのリスクアレルをホモで保有する場合を2点、ヘテロを1点とし10個のSNPの合計とした。結果は、心房細動が捉えられたことがない患者のGRSが6.4±0.7であったのに対して、心房細動を有する患者のGRSが7.1±0.9と有意に高値であった(p=0.001)。左房径には両群で有意な差を認めなかった。さらに、HCN4(rs7164883)においては、左室駆出率が低下した心不全患者では心房細動のリスクアレルとなるのに対して、左室駆出率が保たれている患者では逆に保護的に働くことが判明し、心房細動に関連する遺伝子的背景が環境要因によっても左右される可能性が示唆された。本研究により、他人種で心房細動との関連が報告されていたSNPから得られるリスクスコアが本邦でも心房細動発症の予測因子となり得ることが判明した。これらの遺伝的背景は心房細動の左房拡大とは無関係に心房細動の維持に必要な基質をもたらす可能性がある。
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10.1016/j.ijcard.2014.07.157.