研究実績の概要 |
急性冠症候群は、主に冠動脈不安定プラークの破綻を契機に発症するが、それを簡便に検出可能なバイオマーカーは未だ確立されていない。今回われわれは、pentraxin 3 (PTX3)という新しい急性炎症タンパクに着目した。PTX3は動脈硬化巣局所の細胞から産生されるため、プラークの不安定化を鋭敏に検出できる可能性がある。そこで、本研究の目的は、末梢血PTX3が不安定プラークの存在を予測可能なバイオマーカーになり得るかを明らかにすることである。 不安定プラークの特徴としては、プラーク内に壊死性コア、脂質コアを多量に含むこと、それを覆う線維性被膜が菲薄化していることが挙げられる。そこで、平成25年度までに、まずPTX3値が線維性被膜の厚さと逆相関すること、被膜の薄い脂質性プラーク(thin-cap fibroatheroma)の存在を予測可能なことを、血管内光干渉断層法を用いて明らかにした。 次に、平成26年度には、PTX3値はプラーク内の組織線分を反映するかを、RF信号解析血管内超音波であるiMap-IVUSを用いて検討した。iMap-IVUSを用いて冠動脈プラークの組織成分をfibrotic, lipidic, necrotic, calcifiedの4つに分類し、各成分のvolume (FV, LV, NV, CV) を定量し、全plaque volumeに占める相対値 (%) を測定した。結果、PTX3値は%NVと正相関を示し、%FVと逆相関を示した。重回帰分析の結果、%NVと関連する独立因子はPTX3値であり (β = 0.39, p = 0.013)、%FVと関連する独立因子はLDLコレステロール (β = -0.28, p = 0.034)とPTX3値 (β = -0.42, p = 0.006)であった。以上から、PTX3値冠動脈プラーク内の組織成分を反映することが明らかとなった。 以上の結果から、末梢血PTX3値は不安定プラークの存在を反映するバイオマーカーになりうると結論づけた。
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