酸化ストレスは、動脈硬化発症のリスクファクターであることが示唆されており、その制御が重要な課題となっている。本申請課題では、生体の酸化ストレス防御に中心的な役割を果たすNrf2システムの抗動脈硬化作用を明らかにする目的で、動脈硬化発症につながる血管傷害後の内膜肥厚と血管平滑筋細胞(VSMC)の遊走および増殖について検討を行った。 最終年度である平成26年度は、前年度までに明らかにしたNrf2によるVSMC遊走抑制や血小板由来増殖因子(PDGF)シグナル伝達系活性化の短縮が抗酸化作用によるものか確認するため、抗酸化剤を用いて検討を行った。その結果、抗酸化剤アポサイニンによりPDGFによる細胞遊走能が有意に抑制された。また、シグナル伝達因子ERKの活性化においても、アポサイニンおよびN-アセチルシステイン処置により抑制された。次に、細胞遊走同様に血管内膜肥厚に関与するVSMC増殖におけるNrf2の役割について、Nrf2 siRNAを用いて検討した。しかしながら、PDGFによるVSMC増殖にはNrf2の関与は認められなかった。Wild-typeおよびNrf2遺伝子欠損マウス大腿動脈にワイヤー傷害を施し、4週間後の新生内膜におけるVSMC密度の測定も行ったが、違いは見られなかった。以上の結果から、Nrf2によるVSMC遊走抑制機能は、生体防御遺伝子群の発現に起因する抗酸化作用によるものと結論された。 本申請研究課題を通して、レドックス感受性転写因子Nrf2のPDGF依存性の活性酸素種産生を制御し、VSMC遊走と傷害後の血管再構築を調節することで過剰な新生内膜肥厚を抑制するという新規役割が明らかとなった。これらの成果は、Nrf2やそのターゲット遺伝子をターゲットにした動脈硬化や虚血性心疾患の治療へと方向づけることができるものと考えられる。
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