研究課題/領域番号 |
24790793
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
堀 美香 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 研究員 (60598043)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 脂質代謝 / 動脈硬化 |
研究概要 |
本研究では動脈硬化のkey molecule としてニューロメジンU (NMU) に着目した。NMUの慢性炎症及び動脈硬化成立における生理的意義を明らかにすることを目的とし、NMU-KOマウスに高脂血症の遺伝的負荷をかけるため、ApoE/NMU ダブルKO (ApoE/NMU-KO) マウスを作製した。ApoE-KO、ApoE/NMU-KOマウスに高脂肪食を負荷し、20週齢まで飼育した。ApoE/NMU-KOマウスでは、ApoE-KO マウスに対し、血清総コレステロール値は2倍という非常に高値を示したが (3736 ± 996 mg/dL vs 1953 ± 275 mg/dL; p<0.01)、en face による大動脈の評価及び大動脈洞における組織切片の解析により、プラーク面積に差は認められなかった。このことから、ApoE/NMU-KO マウスでは、ApoE-KOマウスに比較して血清総コレステロール値は上昇するにもかかわらず、動脈硬化は進展しないことが明らかになった。しかしながら、高脂肪食を負荷したApoE/NMU-KOマウスにおいては、ApoE-KOマウスより生存率が低下し、その原因として心臓の中隔枝がコレステリンにより閉塞し、心筋梗塞が誘発されることが示唆された。また、肝臓におけるコレステロール量は、ApoE/NMU-KO マウスではApoE-KOマウスに比較して2倍であったが、肝臓におけるコレステロール合成、代謝関連遺伝子の発現量に差はみられず、CD68のようなマクロファージ関連遺伝子の発現が2倍に上昇していた。また、肝組織切片においては、肝細胞自体は正常であったが、泡沫化マクロファージが多数観察された。以上のことから、NMU はマクロファージにおける脂質代謝に関与していることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的の一つとして、血管壁における慢性炎症を介した動脈硬化発症、進展における NMU の機能解析を挙げているが、本研究により、ApoE/NMU-KO マウスにおいては、ApoE-KO マウスに比較して血清コレステロール値が高いにもかかわらず、動脈硬化の進展は認められないことが明らかになった。このことから、NMU は肝臓のみならず、マクロファージの泡沫化、脂質代謝に寄与することが示唆され、動脈硬化巣においては血管内皮細胞や平滑筋細胞よりも、マクロファージの分化、泡沫化、炎症誘発に寄与すると考えている。また、ApoE/NMU-KOマウスがApoE-KOマウスに比較して生存率が低下する要因として、中隔枝のコレステリンによる閉塞による心筋梗塞の可能性が考えられることから、大動脈の動脈硬化性病変だけではなく、将来的には細動脈の動脈硬化に対する影響についても検討する必要があると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、NMUはマクロファージにおける脂質代謝に関与することが示唆された。ApoE-KO、ApoE/NMU-KOマウスにおいて、腹腔マクロファージを採取し、マクロファージによる脂質代謝、コレステロール逆転送系、泡沫化、さらに炎症についてNMUがどのように寄与するのか検討する。また、ApoE/NMU-KO 及び ApoE-KO マウスを用いた骨髄移植実験により、動脈硬化性病変、血清脂質値、炎症の有無について確認する。これらのことから、「ApoE/NMU-KO マウスでは、ApoE-KOマウスに比較して血清総コレステロール値は上昇するにもかかわらず、動脈硬化は進展しない」というデータを説明できるか確認する。 また、もう一つの研究目的であるメタボリックシンドロームにおけるNMU の機能解析について検討するため、メタボリックシンドローム関連臓器である肝臓、膵臓、脂肪組織、骨格筋、腸においてin vitro、in vivo において検討する。 将来的には、NMUの細動脈の動脈硬化に対する影響についても検討する予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
1)腹腔マクロファージに対するNMUの効果の検討 マクロファージ泡沫化と脂質代謝、炎症誘発に対するNMUの寄与について検討する。各マウスから腹腔マクロファージを回収し、酸化LDL の取り込みを調べる。各マウスにthioglycollateを腹腔内注射し、5日後に腹腔マクロファージを回収し、酸化LDL 存在下で24時間培養後回収し、増殖能の確認、Oil-red O 染色を行う。このとき、NMU及びNMU-R1の発現変化を調べる。培養した細胞からRNAを抽出し、アシルCoAコレステロールアシル基転移酵素及びスカベンジャー受容体の発現量を調べ、脂質代謝、炎症関連遺伝子の発現解析を行う。 2) ApoE/NMU-KO 及び ApoE-KO マウスを用いた骨髄移植実験 ApoE/NMU-KO マウスとApoE-KOマウスにおける動脈硬化性病変が同等であったことから、ApoE/NMU-KOマウスの骨髄を移植したApoE-KO マウスにおいてApoE-KO マウスに比較して血清コレステロール値及び動脈硬化性病変に変化があるのか調べる。ドナーである6週齢の ApoE/NMU-KO 及び ApoE-KO マウスに放射線照射を行い、ApoE/NMU-KO、ApoE-KO マウスから採取した骨髄細胞を尾静注し、高脂肪食を与え14週齢まで飼育する。各マウスの大動脈及び血清を採取し、動脈硬化性病変及び血清脂質について確認する。 3)NMUのメタボリックシンドロームへの寄与に対する検討 各マウスにおいて、メタボリックシンドローム関連臓器である肝臓、膵臓、脂肪組織、骨格筋、腸のホルマリン固定標本及び凍結サンプルを得る。各組織における脂質代謝、糖代謝、エネルギー代謝、炎症関連遺伝子等の発現解析を行う。1)、3)は初年度に行う予定であったが、初年度にマウスの生存率の解析を加えたため、次年度への持ち越し金が発生した。
|