最終年度は、Podocinプロモーターにより制御されるタモキシフェン誘導Cre(CreERT2)トランスジェニックマウスを用いて、スリット膜機能分子の1つであるEphrin-B1のコンディショナル(Ephrin-B1 CKO)マウスを作製し、そのマウスの解析を行った。胎児期にEphrin-B1発現欠損を誘導した誘導マウス、出生後Ephrin-B1発現欠損を誘導させ2ヵ月経過した誘導マウスでは、有意な蛋白尿が観察されなかったが、出生後Ephrin-B1発現欠損を誘導させ20日経過した誘導マウスでは、コントロールマウスと比較して有意な蛋白尿が観察された。また、上記3つの時期にEphrin-B1発現欠損を誘導させたマウスでは、スリット膜構成分子CD2AP、Nephrin、NEPH1、ZO-の発現パターンの異常が観察され、Ephrin-B1はバリア機能の維持とスリット膜構成分子の正常な局在に必須であることが示唆された。さらに、NephrinとEphrin-B1の結合様式を明らかにし、抗Nephrin抗体刺激によってNephrinだけでなく、Ephrin-B1もリン酸化されることを観察した。以上の結果より、Ephrin-B1は機能的にNephrinと相互作用していることが示唆された。 研究期間全体を通じて、シナプス小胞輸送分子SV2Bがポドサイトの構造、機能維持にどのような役割を担っているのかを明らかにするため、SV2Bノックアウト(KO)マウスを用いた解析を主に行った。一連の研究から、SV2Bが前シナプスにおいてシナプス小胞とのドッキング・開口に関与するNeurexinを介してスリット膜構成分子の発現、細胞内輸送に関与していることを明らかにし、これらの研究成果を北米病理学会誌Laboratory Investigation誌に報告した。以上の研究から、シナプス小胞様輸送機構がポドサイト、スリット膜の機能維持に重要な役割を果たしていることが示され、今後の研究にシナプス小胞輸送関連分子を蛋白尿に対する治療のターゲットとした新たな取り組みに貢献できた。
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