研究課題
繊維芽細胞増殖因子 (FGF23)はリン利尿因子として同定された新規増殖因子であり、慢性腎臓病 (CKD)患者では腎機能の低下に先行して血中FGF23値の上昇がみられるだけでなく、血中FGF23値はCKD患者の生命予後にも関連することなどから、その重要性が示唆されるものの、その誘導機序並びに病態への関与については不明な点が多い。申請者は腎障害並びに骨軟化症を呈するイタイイタイ病患者並びにそのモデル動物の病態解析から、本症患者では血清FGF23値が高値を呈すること、またその機序としてカドミウムはFGF23の翻訳後修飾(分子内切断の抑制)に関わる糖鎖付加酵素GalNAc-T3の転写を芳香族炭化水素受容体 (AhR)依存的に誘導することでFGF23産生を促すといった新たな調節系の存在を明らかにした。AhRはダイオキシンなどの化学物質やカドミウムなどの重金属だけでなく、尿毒症物質の一種であるインドール誘導体によっても活性化を受けることから、CKD患者体内で蓄積がみられる尿毒症物質が当該経路を活性化する可能性が予測された。そこで本研究では尿毒症物質(インドキシル硫酸)が当該経路の活性化を介して骨でのFGF23産生を誘導され、これが血液を介して全身に運ばれ、CKDの病態(腎障害)並びに合併症としての筋・骨格系障害の発症並びにその進展に関わるものと考え、その検証を試みた。その結果、インドキシル硫酸 (IS)はin vitroおよびin vivoにおいて骨でのGalNAc-T3 mRNAの発現を誘導するとともにFGF23産生を惹起した。またISの作用はAhR依存的にGalNAc-T3遺伝子promoter活性を誘導することを見いだした。以上の成績は尿毒症物質であるISがGalNAc-T3の誘導を介してFGF23の安定化を促すことを示すものであり、CKD患者におけるFGF23異常高値の機序の一端を分子レベルで説明しうるものであると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
当該研究計画は概ね、当初の計画通りに順調に進んでいる。培養骨芽細胞を用いた細胞内情報伝達経路の解析はほぼ終了し、同様の経路がin vivoでも活性化されることを実験動物を用いて解析中である。
CKD患者ではしばしば臀部・大腿部などでの筋萎縮と骨粗鬆症を認める。こうした筋・骨格系障害は患者の日常生活動作に多大な影響を与えるにも関わらず、他の合併症に比べてもその対策は遅れがちである。申請者は過去に糖尿病合併症発症におけるFGF23の関与について予備的研究を進めており、FGF23は骨格筋細胞におけるインスリン受容体関連分子 (IRS-1)の機能を下方制御することを見いだしている。IRS-1はInsulin/IGF-1シグナルを媒介する中心分子であり、IRS-1シグナル経路は糖代謝のみならず細胞増殖をも制御する極めて重要なシグナル分子でもある。InsulinあるいはIGF-1は骨格筋細胞においてInsulin受容体 (IR)依存的にIRS-1のチロシンリン酸化を促すことで下流シグナルを活性化するが、FGF23はInsulin/IGF-1とは異なる経路でIRS-1のセリンリン酸化を促しその機能を抑制することをin vitroの系で確認している。次年度はその詳細な分子機序を明らかにするとともに、FGF23と筋萎縮との関連についてより詳細な検討を試みる。またFGF23は産生臓器である骨に対してもautocrine/paracrine的に作用することが知られていること、FGF23の遺伝子変異はある種のくる病・骨軟化症の原因でもあることから、FGF23が骨を構成する細胞に直接作用してその機能を抑制する可能性が示唆される。骨におけるFGF23の標的分子としては前述のIRS-1経路の他、生理的な骨代謝調節に必須の役割を担うCanonical Wnt経路などが想定され、今後FGF23によるこれらシグナル経路への関与について検討を試みる予定である。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
Toxicological sciences
巻: 139(2) ページ: 301-316
10.1093/toxsci/kfu043
J Am Soc Nephrol
巻: 25 ページ: 761-771
10.1681/ASN.2013060569.
Endocrinology
巻: 154 ページ: 1156-1167
10.1210/en.2013-1915
Contrib Nephrol
巻: 180 ページ: 86-97
10.1159/000346786.
Int J Hematol.
巻: 98 ページ: 66-73
10.1007/s12185-013-1367-z.