研究実績の概要 |
平成26年度はメタボリックシンドロームによるエピジェネティクス変化と腎臓病態進展との関連を調べるために、腎糸球体血管内皮細胞と脂質代謝異常に係わる肝臓でのDNAメチル化変化を生じる遺伝子を探索・解析した。 1. 腎糸球体血管内皮細胞と肝臓でのDNAメチル化変化 メタボリックシンドロームモデルラット、高血圧ラットおよび正常ラットより分取した糸球体血管内皮細胞のメチル化DNA領域を、次世代シーケンサーにより網羅的に解析した。その結果、プロモーター領域のDNAメチル化が変化した遺伝子として、約2,000遺伝子を見出した。メタボリックシンドロームラットの糸球体血管内皮細胞では、正常ラットに比べDNAメチル化の減少した遺伝子が数多く検出され、その中にはBMPのアンタゴニストとして働くSostdc1遺伝子が含まれていた。Sostdc1の転写開始点近傍のDNAメチル化が6割減少しており、Sostdc1の発現増加が糖尿病性腎症の進展や血管内皮細胞の障害と関連することが示唆された。さらに、メタボリックシンドロームによる腎臓病態の危険因子の1つである脂質代謝異常に係わる因子を調べるために、肝臓でのDNAメチル化変化を解析した。メタボリックシンドロームによりDNAメチル化が増加した遺伝子が数多く見出され、これらDNAメチル化の増加に、DNA脱メチル化酵素であるTET1とTET2の発現減少が係わることが示唆された。 2. エピジェネティクス薬を用いた、糖尿病性腎症治療効果の評価 DNA脱メチル化薬である5’-Azacytidineの投与による腎臓疾患の治療を検討していた。しかしながら、メタボリックシンドロームにより糸球体血管内皮細胞のDNAメチル化変化は、主にDNAの脱メチル化が病態の進展に係わっていたため、脱メチル化薬を用いた治療は向かないと判断した。
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