研究課題
若手研究(B)
本研究はリソソームプロテアーゼの中で、特にカテプシンL(CL)とカテプシンD(CD)に注目し、その生理的・病的条件下での役割や蛋白尿発現との関連について明らかにすることを目的としている。【カテプシンLとポドサイト障害】本年度、CLノックアウトマウスに糸球体硬化モデルであるアドリアマイシンの投与を行った。この結果、投与後24-56日にかけて、野生型マウスに比し有意に蛋白尿が抑制された。また56日の腎組織で、野生型マウスで硬化糸球体が多数認められたが、CLノックアウトマウスではほとんど認めなかった。この結果は、CL阻害が抗蛋白尿効果に加え、不可逆性の変化である糸球体硬化を抑制する可能性を示唆している。今後はそのメカニズムについて検討する予定である。【カテプシンDとポドサイト障害】平成24年度にポドサイト特異的CDノックアウトマウスを作成し、自然経過を観察した。この結果、生後6ヵ月目以降で野生型マウスと比し有意に蛋白尿を認めることが分かった。さらに、蛋白尿が出現していない生後3ヵ月の電子顕微鏡像で、CDノックアウトマウスの神経細胞で認められる、オスミウム好性顆粒(granular Osmiophilic deposit:GROD)やオートファゴゾーム・指紋様構造がポドサイトに認められた。蛋白尿とGRODなどのポドサイトの形態変化は、共に加齢に従い増加することも明らかになった。また、免疫組織染色でポドサイトへのp62・ユビキチンの蓄積も認めた。以上より、CDの欠損がポドサイトにも神経細胞と同様の細胞障害をもたらし、オートファジー不全を背景とした腎障害を引き起こすことが考えられた。今後は、CD欠損とポドサイト障害について、そのメカニズムの解明を予定している。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度の研究により、リソソームプロテアーゼはポドサイトの生存と細胞骨格の調整に重要な役割を果たし、蛋白尿の発現と関連することが、ノックアウトマウスを使用した実験により示された。今後はこれらのメカニズムを明らかにするために、腎組織やポドサイト関連蛋白の発現変化を比較検討していく予定である。またin vitroの実験でも、現在ノックアウトマウスから糸球体を単離し、初代培養を行うことに成功しており、平成25年度以降、ノックアウトポドサイトを用いてin vivoの結果を裏付けるような形で実験をすすめていきたいと考えている。阻害剤を使用した野生型マウスの実験は準備中であるが、現在ノックアウトマウスを使った実験により非常に興味深い結果が得られていることから、おおむね順調に進展していると判断した。
今後は平成24年度に得られた結果のメカニズム解明に主眼をおき、in vitroも併せた評価も予定している。メカニズムの解明ために、当初予定していた免疫組織染色・ウェスタンブロットによる評価に加え、免疫電子顕微鏡や走査型・透過型電子顕微鏡、マイクロアレイによる解析なども用いていく予定である。本研究の最終目標は、蛋白尿発症機序の解明および新規治療法の開発である。得られた結果は、学内の研究協力者と適宜討論を行い、研究成果は、国際学会での報告、欧米紙への投稿を行っていこうと考えている。
消耗品:昨年度の結果を解析するために、ポドサイトのアポトーシス解析用試薬、ポドサイト関連蛋白とオートファジー関連蛋白の解析に必要な各種抗体の購入を予定している。蛋白尿の正確な評価のため、アルブミン尿測定キットの購入費用も昨年に引き続き必要である。また、研究の進行度によりマイクロアレイによる解析費用や統計・画像解析用ソフトの購入費用に充てることも検討している。旅費:国外出張についてはアメリカ腎臓学会で成果を発表するための旅費を予定している。
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