研究課題
本研究はリソソームプロテアーゼの中で、特にカテプシンL(CL)とカテプシンD(CD)に注目し、その生理的・病的条件下での役割や蛋白尿発現との関連について明らかにすることを目的としている。【CLとポドサイト障害】平成24年度の研究でCLノックアウトマウスにアドリアマイシンを投与すると、野生型マウスと比較し蛋白尿・糸球体硬化が有意に少ないことが示された。これは、ポドサイトにおけるCLの発現亢進が蛋白尿・糸球体硬化と関連することを示す結果である。平成25年度は、アドリアマイシン腎症のCLノックアウトマウス・野生型マウスの組織観察を中心に解析を行った。この結果、ポドサイト障害を示す、スリット膜蛋白の細胞質への局在変化に加え、CL発現亢進による基質の過剰分解が原因と考えられるデンドリンの核移行、CD2AP・シナプトポディンの発現低下が確認された。【CDとポドサイト障害】平成24年度にポドサイト特異的CDノックアウトマウスを作成し、自然経過の観察を行った。この結果、ポドサイト特異的CDノックアウトマウスは生後4ヶ月頃より蛋白尿が出現し加齢と共に漸増すること、電子顕微鏡観察でCDノックアウトマウスの神経細胞と同様の特徴的な蓄積物を認めることが明らかとなった。平成25年度は自然経過観察を継続し、ポドサイト特異的CDノックアウトマウスは生後1年以降でポドサイトのアポトーシスから糸球体硬化に至ること、生存率が有意に低いことが明らかとなった。また電子顕微鏡で認めた蓄積物はCDの基質であり、リソソーム蓄積症の病態を呈しているが、基質蛋白の候補としてミトコンドリアATP合成酵素のサブユニットCとスリット膜関連蛋白が考えられ、現在解析をすすめている。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、現在までに、ノックアウトマウスの解析を中心に、CL・CDが、共にポドサイトの恒常性維持に重要な役割を果たすことを示すことができた。特にCDについては、これまでポドサイトにおける役割が明らかになっておらず、非常に意義のある結果が得られていると考える。平成25年度は、平成24年度に得られたデータをもとに腎組織やポドサイト関連蛋白の発現変化を、病理組織と生化学的なデータにより示すことができた。現在in vivoのデータを裏付けるin vitroの実験を行っている。不死化ポドサイト作製は昨年度から継続して取り組んでいるが、精度などの問題があり、現在も作製中である。このため併行して野生型培養ポドサイトに阻害剤を投与した実験を開始し、現在解析をすすめている。
【CLとポドサイト障害】これまでの研究でCLの発現亢進により、CLの既知の基質が過剰分解され、糸球体硬化と関連している可能性を示すことができた。今後は、未知のCLの基質が糸球体硬化と関連している可能性も含め、そのメカニズムについて検討する予定である。また、in vitroの実験では野生型培養podocyteに対しCL阻害薬であるE64とLPS・ADR投与の実験を行いin vivoの結果と併せて検討していく。【CDとポドサイト障害】これまでの研究でポドサイト特異的CDノックアウトマウスは蛋白尿を認め、加齢性に腎糸球体硬化症に至ることが明らかとなった。また、糸球体硬化に至る際に、リソソーム蓄積症の病態を呈し、ポドサイトがアポトーシスに至ることも分かった。今後は、リソソーム内に蓄積するCDの基質蛋白を解明し、糸球体硬化に至るまでのメカニズムを明らかにしていきたいと考えている。また、in vitroの実験では野生型培養podocyteに対しCD阻害薬であるペプスタチンAを投与し、in vivoの結果と併せて検討していく。不死化CDノックアウトポドサイトの作製に成功した場合はマイクロアレイ解析も行いたいと考えている。
現在、研究結果の論文作成段階となっているが、in vitroのデータを中心に追加実験が必要である。また、統計学的解析の上でサンプル数を多くすることも考え、実験をすすめており、実験遂行・論文作成に諸費用を要すると考えている。物品費:平成26年度は2年間の研究結果をもとに論文作成に必要な追加実験を行っていく。具体的にはポドサイト関連蛋白・オートファジー関連蛋白の解析に必要な各種抗体の購入、in vitroの実験に必要な細胞培養関連の諸費用を中心とした使用を予定している。旅費:国外出張についてはアメリカ腎臓学会で成果を発表するための旅費を予定している。人件費・謝金:研究結果の論文作成にあたり、英語校閲の依頼を予定している。
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