Fahr病(特発性大脳基底核石灰化症 idiopathic basal ganglia calcification: IBGC)は、常染色体優性の遺伝性疾患であり、画像上は大脳基底核を主体とした石灰化像を特徴とする。臨床的には精神症状、認知症、パーキンソン症候群など多彩な症状を呈するが、石灰化を伴っていても無症状である個体も存在する。これまで、疾患責任遺伝子として、SLC20A2遺伝子(Wang C et al. Nat Genet 2012)、PDGFRB遺伝子(Nicolas G et al. Neurology 2013)、PDGFB遺伝子(Keller A et al. Nat Genet 2013)が同定された。 本研究では、家族性IBGC家系の発端者2名、弧発例1名の3名において次世代シーケンサーを用いてエクソーム解析を行った。この中で、家族性IBGC一家系において、SLC20A2遺伝子に新規変異c.516+1G>Aを同定した。本家系の脳CTでは3世代に渡り石灰化病変を認めた。臨床症状としては発端者および母に安静時振戦などのパーキンソン症状を認めた。子は無症候性であったが、石灰化病変を認めた。家系内の遺伝子変異の有無と石灰化病変の有無は対応していた。reverse transcript-PCRを用いた発端者末梢血mRNAの解析からエクソン4のスキッピングが確認され、SLC20A2遺伝子がコードするPiT2タンパクの機能不全を来すことが予想された。IBGCの臨床徴候は多彩であるが、SLC20A2遺伝子異常によるIBGCは日本人家系においても家族性パーキンソン症候群をきたす原因疾患となりうることが示唆された。
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