本研究で我々の確立したスクリーニング・システムは、SOD1の転写を抑制するFDAで承認されている既存薬Xを同定した。既存薬XのSOD1転写抑制効果は、in vitroで、定量的リアル・タイムRT-PCR及びウェスタン・ブロッティングでmRNA、蛋白レベルともに効果を判定した。さらに、他のrhoキナーゼ(ROCK)阻害薬であるY-27632でも同様にSOD1の発現を抑制することを見出した。ROCKはROCK1とROCK2の2種類あり、RNA干渉によりその発現をひとつずつ抑制しても、SOD1の発現を抑制する作用はなかった。しかし、ROCK1とROCK2を同時にノックダウンすることにより初めてSOD1転写抑制作用を有することを見出した。以上の結果から、ROCK1及び2の活性を抑制することがSOD1の転写を制御することにつながり、かつ既存薬XがROCKの抑制効果を介してSOD1の転写を抑制していることを示唆するものである。既存薬Xは国内で既に臨床で使用されており、その安全性は広く受け入れられている。我々の研究は既存薬Xの新たな薬理学的性質を提示するとともに、ALS治療薬として新たに再配置できる可能性を示すものである。 NFκBレポーターアッセイを用いてさらに解析すると、既存薬XがROCK抑制効果を介してNFκBの活性を低下させていることが示された。NFκBは神経炎症に関わる主要な転写因子で、ALS患者の脊髄前角においてその発現が亢進することが報告されている。 さらにNFκBの転写調節領域が、SOD1の5’非翻訳領域にあるプロモータ領域に存在しており、NFκBが実際にSOD1の転写調節因子の一つであるという報告もある。既存薬XのSOD1発現調節作用メカニズムの少なくとも一部は、NFκBを介している可能性が示唆された。
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