研究課題/領域番号 |
24790883
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
多田 智 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (70626530)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | BAFF / ALS / B細胞 / 神経栄養因子 / 神経変性疾患 |
研究概要 |
B細胞刺激因子(BAFF)は、BAFFレセプター(BAFFR)を受容体として作用するB細胞分化/生存に必須のサイトカインであるが、神経系におけるその作用は不明であるため、これを明らかにするために実験を行った。 まずマウス脊髄及び胚初代培養神経細胞に対して、BAFFRの発現を免疫染色によって確認た。この結果、マウス脊髄並びに培養神経細胞において、神経細胞にBAFFRの発現が認められた。BAFFRの発現は神経細胞以外の中枢神経細胞にはほとんど認められなかった。次に培養神経細胞に対して上清中のBAFFを阻害し、残存神経細胞数を比較したところ、BAFF非阻害群と比較して残存神経細胞数の減少を認めた。 BAFFの神経保護作用がin vitroで示唆されたため、in vivoにおいてBAFFRシグナルの神経変性に対する影響を検討すべく、筋萎縮性側索硬化症(ALS)のモデルマウス(mSOD1マウス)を利用してmSOD1/BAFFR-/-マウスを作製した。mSOD1/BAFFR-/-マウスはコントロール群と比較して生存期間が有意に短縮し、体重や運動機能で評価しても神経変性が加速していた。BAFFR-/-マウスには成熟B細胞がほとんど存在せず、B細胞の欠損が神経変性を加速した可能性を検討するために、B細胞の全く存在しないmSOD1/IgM-/-マウスとコントロールマウスを比較したが、症状進行と生存期間に有意差は認められず、mSOD1/BAFFR-/-マウスで見られたBAFFシグナルによる神経保護作用はB細胞非依存的にもたらされることが明らかとなった。 以上よりBAFFRは神経細胞に発現しており、神経系におけるBAFF-BAFFR axisは直接的に神経保護に働いている可能性が示され、BAFFが新たな神経栄養因子としての神経疾患治療に利用可能である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ALSは治療法のない疾患であるため、全世界で多方面からさまざまな試みがなされている。神経保護因子・神経成長因子投与も有力な治療ターゲットと考え られており、精力的に研究されている。2011年には神経栄養因子であるHGFのALS患者への髄腔内投与が臨床治験として開始され、有望な治療法と期待されている。 今回我々は、リンパ球の一種であるB細胞の生存に重要な役割を果たしていることが既に明らかになっているBAFFというサイトカインに注目し、これが神経細胞の生存に対しても重要な役割を果たしている可能性があることを見出して平成24年度の研究実施計画を立てたが、我々の予想通りにBAFFが神経細胞に対して保護効果を持っていることがin vitro並びにin vivoで示され、概ね計画通りに研究費を執行でき、予定されていた実験を予定通りに行えたため、順調に計画が進展することとなった。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの結果からBAFFRシグナルを欠損させるとALSマウスの神経変性が促進することが明らかになった。今後は更にBAFFによる神経保護作用を確認するためにリコンビナントBAFFをSOD1tg mouseに投与し、対照 マウスと発症時期、寿命を比較する。これらのマウスの麻痺症状の評価は、臨床症状・金網落下試験及び体重測 定により行う。更に運動ニューロン障害の客観的評価のために、脊髄及び前根の組織標本を作成し、Nissl染色 及びトイジンブルー染色を行いそれぞれ運動ニューロン数及び軸索数の計測を行う。 リコンビナントBAFF投与による神経保護効果が見られない場合には、BAFFの中枢神経への移行を確実にするため ALSモデルマウスの脳室内にカニュラを留置してosmotic pumpを接続し、BAFFの脳室内投与を行う。あるいは、ALSマウスの中枢神経に浸潤する事が知られている単球細胞にレンチウイルスベクターを用いてBAFF遺伝子を 導入し、BAFFを強制発現させて中枢神経内へのBAFFのdeliveryをより確実にする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため、当初の見込み額と執行額は若干異なったが、研究計画に変更はなく前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。
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