研究課題/領域番号 |
24790889
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
真崎 勝久 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90612903)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | コネキシン / 多発性硬化症 / 視神経脊髄炎 |
研究概要 |
多発性硬化症をはじめとした中枢性脱髄性疾患におけるコネキシン蛋白群の発現を病理学的に詳細な解析を施行した。Balo病の急性期脱髄病巣では、全例でCx43は広汎な脱落をみとめたが、GFAP陽性反応性アストロサイトは多数残存していた。さらに、ミエリン外層や層内に発現するCx32やCx47も広汎に発現低下していることを見出した。辺縁の早期病巣ではMAG脱落が先行する脱髄(patternIII脱髄、distal oligodendrogliopathy)をみとめたが、同部位ではAQP4やCx43もすでに脱落していた。また、Marburg型をふくむMS3例の急性期病巣でもAQP4やCx43 の発現は低下する一方、反応性アストロサイトは残存していた。AQP4は病巣内で斑状に脱落しており、一部の反応性アストロサイトでは発現が亢進していたが、Cx43はよりびまん性に発現低下がみとめられた。Marburg型MSの病巣内にはCreutzfeldt astrocyte を多数みとめ、AQP4の発現は細胞膜上で亢進しており、Cx43の発現はみとめないことをみいだした。NMO6例では、血管周囲性にAQP4やCx43が脱落するアストロサイトパチーをみとめ、アストロサイトは高度に変性していた。うちNMO4例ではアストロサイトパチーをみとめる血管周囲性に免疫グロブリンや補体沈着がみとめられた。一方、実質内に形成された急性期病巣では、MAG脱落が先行するpatternIII脱髄がみとめられ、MOGやCx47、Cx32は比較的保持されていた。このpattern III脱髄は,抗AQP4抗体陽性のNMO 剖検例の大脳病巣でもみとめられた。また、血清中の抗Cx43抗体や抗Cx32抗体の有無をcell-based assayを用いて測定し、Balo病やMS、NMO患者血清中には抗体は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MS、NMO、Balo病の剖検標本を用いて、コネキシンを中心としたアストロサイト、オリゴデンドロサイト関連タンパクの発現変化を神経病理学的に詳細な検討を行い、コネキシン43やアクアポリン4の発現低下が脱髄性疾患の急性期病巣において共通に認められること、NMOでもMAG脱落を特徴とする広汎な脱髄をみとめること、アストロサイトの血管周囲足突起に特異的に発現するMLC1が脱落することなどを見出した。また、これらの変化は、血管周囲性の抗体や活性化補体の沈着を認めず、抗体非依存性にも生じうることを発見した。Balo病の病理学的研究成果と、Balo病患者における抗AQP4抗体、抗コネキシン43、コネキシン32抗体の測定結果について、論文発表した(Masaki K, et al. Acta Neuropathol 2012)。また、これらの研究成果により、2012年欧州MS国際学会(ECTRIMS)においてアジアから唯一口演発表に選出された。環アジアMS国際学会ではBalo病の病理について招待講演を行った。米国神経学会(ANA)ではポスター発表を行った。MS、NMOの病理結果についても論文投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
病理学的研究は、他施設との共同研究を含め、tumefactive MSや、Marburg型MSなど、MSの中でも広汎な病巣を形成する特殊型の生検や剖検標本を使用したコネキシン蛋白の解析をすでに進めている。さらに、コネキシン43の脱落を病理学的にみとめた症例では、MSでもNMOでも死亡までの期間が有意に短いことを見出した。コネキシンの脱落は病気の進行や重症度に関連する可能性が示唆されたため、今後は臨床的データとの関連性について詳細な解析を予定している。また、コネキシン蛋白の経時的変化や病態への関与をより機能的に解析するために、MSの動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を用いた研究を開始している。MOG35-55ぺプチドをC57/BL6マウスに注射して誘導するEAE、PLP139-151ペプチドでSJLマウスに誘導するEAEなど複数の異なるEAEを使用し、各種コネキシン蛋白やMLC1、AQP4などの組織免疫染色を進めている。ウェスタンブロットやreal-time PCR法などと併せて詳細な解析を行う方針である。さらに、コネキシンが形成するギャップ結合やヘミチャンネルを標的とした治療を開発するためギャップ結合阻害薬や活性化薬剤を用いて、EAEがどのように修飾されるのかを評価する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
ヒト検体を用いたこれまでの研究に加え、モデル動物を使用した機能的解析を開始しており、酵素抗体法および蛍光抗体法に使用する各種一次抗体や二次抗体、MOG35-55ペプチド、PLP139-151ペプチドなどの抗原蛋白、CFAや百日咳毒素などのアジュバンド、マウス購入費、飼育費、コネキシンを標的とする化合物の購入、ウェスタンブロットやPCR法で使用する各種試薬、抗体測定に用いている培養細胞系に必要な消耗品の購入、などに使用させていただく予定である。
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