研究課題
ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)は、免疫の司令塔であるCD4+ヘルパーT(CD4+ Th)細胞に持続感染するレトロウイルスであり、感染者の一部に脊髄の慢性炎症を特徴とする免疫性神経疾患であるHTLV-1関連脊髄症(HAM)を引き起こす。その病態の特徴は、HTLV-1感染細胞に起因した過剰な免疫応答による脊髄炎症と考えられている。我々はこれまでの研究から、HTLV-1がCD4+ Th細胞の中でも主に制御性T細胞(Treg)を含む細胞群に感染することを明らかにし、Treg中でHTLV-1機能遺伝子Taxを発現することが、Tregから炎症促進的な異常細胞への分化転換を誘導すると共に、Tregの機能転化が生体の免疫恒常性破綻の起因となり異常な免疫応答を引き起こすことでHAM発症の重要な引き金となっていると予想した。そこで本研究では、Treg特異的Tax発現ノックインマウスを作製し、TregにおけるTax発現が生体における免疫恒常性を破綻させ、炎症病態を誘導し得るか検討し、HAMにおける免疫異常発症機構を明らかにすることを目的する。Treg特異的Tax発現ノックインマウスは、Tregマスター転写因子であるFoxp3を発現する細胞においてTaxを特異的に誘導することにより作製した。平成25年度は、Treg特異的Tax発現ノックインマウスの樹立に成功し、継代維持を行い、表現型の解析を行った。その結果、すべてのTregにおいてTaxを発現するマウスは、6週齢以内に全例致死となったが、一部のTregにおいてTaxを発現するヘテロマウスでは、耳介の皮膚炎症状と共に、尾部の皮膚潰瘍、耳介のレイノー現象や壊疽といった血管炎において見られる表現型を呈した。よって、TregおけるTaxの発現誘導が生体における炎症症状を惹起し得たことから、HTLV-1による免疫異常発症機構におけるTaxの関連性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
Treg特異的Tax発現マウスを樹立することに成功し、繁殖維持を進め、これまでにTax発現マウス特異的な表現型を明らかにし、その詳細な解析を進行している。平成24年7月~平成25年7月まで産前・産後休暇、育児休業取得により一定期間研究を中断していたが、進行状況はおおむね順調である。
樹立したTreg特異的Tax発現ノックインマウスの形態および行動異常(炎症による四肢の腫れ、歩行障害、麻痺など)について引き続き経過観察を行うと共に、各種臓器における病理組織学的解析を行う。同定された異常臓器は、その臓器障害および炎症細胞浸潤の解析を行う。また、Taxノックインマウス中のTregおよび各種Th細胞のマーカー分子および各種炎症性サイトカインの発現変化などの免疫・細胞学的解析を行い、TregにおけるTax発現により引き起こされるTreg機能および生体の免疫バランス異常を明らかにする。さらに、Taxノックマウスを用いて実験的自己免疫性脳脊髄炎マウスを作製し、自己免疫疾患モデルに対する抵抗性に関する解析に着手する。
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