研究課題/領域番号 |
24790902
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
新見 直子 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野, 研究員 (90405043)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | DNAワクチン / アルツハイマー / 抗体特異性 |
研究概要 |
アルツハイマー(AD)病の発症はアミロイドβ(Aβ)の沈着によるものではなく、Aβの小さな集合体(オリゴマー)によるという考えが近年主流になってきている。所属研究室で開発中のAβワクチンはAβオリゴマーを含む複合体を発現するため、このワクチンに対する抗体にはAβオリゴマーに対する抗体が含まれている可能性が高い。24年度は、Aβワクチンから発現する翻訳産物によって産生される抗体にAβオリゴマーを認識できる抗体が含まれているか検討した。 まず、ウサギにワクチンを投与し、投与前と6週間後に採血した。この血漿からproteinGカラムによりIgGタンパク質のみを精製し、ビオチン標識をつけた。精製した血漿抗体がADのモデルマウスの脳抽出液からAβを検出できるかウエスタンブロッティングにより調べた。その結果、ワクチン投与後の血漿抗体からはバンドが検出でき、投与前の血漿抗体からは何も検出されなかった。また、抗Aβ抗体として市販されている抗体を用いても同様な結果だったことから、この血漿抗体はAβを認識できる抗体が含まれると考えられた。また、バンドが複数検出されたことから、Aβのオリゴマーを認識できる抗体が含まれると考えられる。さらに、ヒスチジンtagをもつAβオリゴマーのみを発現するベクターを設計した。このベクタープラスミドを大腸菌にて発現させ、ヒスチジンカラムにより精製した。この精製Aβオリゴマーに対してウサギ血漿抗体が十分量なかったため、カニクイザルの血漿抗体を用いてELISAを行った。その結果、ワクチン投与前の血漿抗体と比較して投与後の血漿抗体の抗体価は増加した。また、Aβ1-42蛋白質に対しても同様に抗体価が増加した。このことからワクチンにより抗Aβオリゴマー抗体が産生されると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度の予定はワクチン投与により抗Aβオリゴマー抗体の産生が増強されるか調べることである。本年度の研究の結果、抗オリゴマー抗体の産生は増強されていると示唆されるデータを得ることができた。 ウサギ血漿抗体を用いて全ての実験を行う予定であったが、得られた血漿抗体の量が少なかったため、サル血漿抗体に変更した。しかしこれにより、よりヒトに近い動物でのワクチン投与後の血中の抗体について調べることができ、当初予定よりもより有意義なデータとなった。また、ワクチンからのAβ複合体ではなくAβオリゴマーのみを発現するベクターを予定どおり作成できた。このベクターをまず、ヒト培養細胞株での発現を目指したが、発現量が非常に低く、実験に使用できるほどの量を精製することができなかった。そこで、大腸菌にて大量発現させ、精製することができた。大腸菌とヒト細胞では翻訳産物にたいする修飾や立体構造が異なる可能性を否定することはできないが、実験結果を調べる限りでは、問題はほとんどないと考えられる。 したがって、24年度の予定をほぼ順調に行うことができたと考えた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、生体内でのワクチン効果を調べることを主に行う。 24年度までに得られた結果では、ワクチン投与した動物から得られた血漿抗体はAβオリゴマーを認識できることが示唆された。このことから、ワクチンからの翻訳産物はAβオリゴマーの構造をとっていることが考えられる。そこで、アルツハイマーのモデルマウスにワクチンを投与し、その脳からの抽出蛋白質においてAβオリゴマーが削減されているか、また、抗Aβオリゴマー抗体が増加しているかを調べる。抗Aβ抗体は何種類か市販されているが、それぞれ認識する部位が異なっている。これらの抗体を用いて、生体内でどのような構造のAβが存在しているか調べる。また、ワクチンの投与時期の検討を行う。しかし、できるかぎり動物を使用する実験を減らすため、極力検討条件を抑え、有効と思われる時期を厳選して実験を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
今後の研究に対する知見を広げるために学会に参加し、多くの研究者と議論をすることでより研究に対する考察を深めていきたい。また、研究に必要な試薬や解析機器などを購入し、より効率的に研究を進められるようにする。
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