p21は細胞周期を調節する主要な因子であるが、肥満モデルマウスの脂肪細胞および肝細胞では細胞周期はG0期であるにも関わらず、p21の発現が亢進している。これまでの研究から、培養脂肪細胞におけるp21の過剰発現はインスリンによる糖取り込み能を低下させ、またp21欠損マウスは高脂肪食負荷時にインスリン抵抗性を呈しにくいことが判明している。p21の既知のターゲット分子としてはCDKs(cyclin-dependent kinases)が知られている。そこでp21とインスリン抵抗性の関係を明らかにするためCDKsに注目し、CDKsのノックダウンベクターの作成を行った。p21がターゲットとするCDKsにはcdk1、cdk2、cdk4が知られているが、その中でも脂肪細胞においてはcdk2とcdk4の発現が比較的高い。そこでマウスのcdk2とcdk4のmRNAを標的としたshRNA(cdk2i、cdk4i)を発現させるノックダウンベクターを作成した。さらにクロナーゼ反応を介したゲートウェイ法を用いて上記のshRNAを組み込んだノックダウンアデノウィルスベクターを作成した。得られたマウスcdk2i、cdk4iアデノウィルスベクターを3T3-L1脂肪細胞に感染させ、細胞内のcdk2、cdk4のmRNAをリアルタイム定量的PCRにて確認したところcdk2、cdk4の有意な発現抑制は見られなかった。shRNA配列の改良やウィルスベクターの感染方法の改善が今後の課題と言える。一方、CDKs阻害作用を持つ複数の化合物を3T3-L1脂肪細胞に添加し細胞内のCDKsを阻害すると、インスリン刺激による糖取り込みが減少することは確認できた。
|