研究課題/領域番号 |
24790913
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
笹子 敬洋 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (20550429)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 肥満 / 糖尿病 / インスリン抵抗性 / シャペロン |
研究概要 |
まず我々が着目したコシャペロンであるSdf2l1と、代表的なシャペロンであるBiPの相互作用の解析を進めた。発現ベクターを用いて、タグつきの両分子、すなわちSdf2l1-FLAGとBiP-HAを培養細胞系に発現させ、共免沈を手法で解析したところ、確かに両分子間に相互作用があることが示された。一方で、Sdf2l1が有すると予測される3ヶ所のMIRを欠損した変異体を作製したが、いずれもBiPとの相互作用は保たれていた。 次に肥満・糖尿病モデルであるdb/dbマウスを用い、絶食と再摂食の状態で、小胞体ストレス関連シグナルの変化を包括的に解析した。その結果、確かに小胞体ストレスセンサーであるIRE1αやPERKのリン酸化は亢進していた一方、より下流の分子の発現や活性化は寧ろ低下しており、Sdf2l1の発現も大きく低下していた。この機序を明らかにするために、免疫クロマチン沈降法による解析を行なったところ、db/dbマウスではSdf2l1プロモーターとXBP1との結合が低下していた。 最後に肝臓特異的Sdf2l1欠損(LSdfKO)マウスに関して、予定通りSdf2l1-floxedマウスとAlb-creマウスとのかけ合わせにより、実験群を作出した。しかしながら予想に反して、少なくとも若週齢においては、LSdfKOマウスと対照となるfloxマウスの間で、耐糖能やインスリン感受性に差は見られなかった。体重や摂餌量にも差を認めなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね当初の予定通りに、各種解析を進めることができたと考えている。 Sdf2l1とBiPの相互作用については、予想通りに示すことができ、小胞体でのシャペロン機能を考える上でも中心的な役割を果たすBiPと複合体を形成していることから、Sdf2l1も重要な役割を担っているとの期待が増している。但しSdf2l1のどの部位がこの相互作用に重要であるかは、今後の検討課題である。 肥満・糖尿病の肝臓における小胞体ストレスの全貌に関しては、小胞体ストレスセンサーが活性化していたことから、小胞体ストレスは確かに過剰であることが示された。しかしながらより下流で、本来小胞体ストレスを収束させるはずの分子については、活性が低下しているものと考えられた。このことが更なる小胞体ストレスの亢進につながる、という悪循環が形成されている可能性が明らかとなった。またこのような病態形成にSdf2l1の発現低下が寄与しているものと考えられるが、その低下は転写レベルで生じていることも示された。 LSdfKOマウスについても、実験群の作出自体は予定通りに進めることができた。しかしながら予想に反して若週齢では表現型を認めず、更に週齢を追っての解析が必要と考えられる。またfloxマウスの肝臓にアデノウイルスを用いてcreリコンビナーゼを発現させる手法も検討すべきと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、平成25年度にLSdfKOマウスの表現型を引き続き解析する。具体的には加齢に伴って表現型が顕在化する可能性が想定されるため、より長期間に渡って飼育を続け、体重、耐糖能、インスリン抵抗性の評価を反復するものとする。またfloxマウスにcreを発現するアデノウイルスを投与し、成獣になってからSdf2l1を肝臓特異的に欠損させたマウスを作製することで、その表現型を改めて解析する。 Sdf2l1と他分子の関連に関しては、引き続きどのドメイン、または残基が、BiPとの相互作用や、シャペロン機能の発揮に重要なのか、培養細胞系を用いた検討を進める。またSdf2l1の上流として転写因子XBP1の重要性が示唆されてきたため、XBP1を欠損させたマウスにSdf2l1、またはその機能を喪失した変異体を補充し、XBP1欠損に伴う表現型が回復するか否かを検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続き遺伝子改変マウスの維持と実験群作出、培養細胞系での種々の解析、並びに学会・研究会への参加と発表にかかる費用として、使用する予定である。
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