研究課題/領域番号 |
24790915
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高梨 幹生 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70610799)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 脂質異常症 / インスリン / ホルモン感受性リパーゼ / リポ蛋白リパーゼ / ストレプトゾトシン |
研究概要 |
予備的検討において、ストレプトゾトシン(STZ)によるインスリン欠乏下では野生型マウスでは血中のトリアシルグリセロール(TG)濃度、ケトン体濃度が著しく増加するが、ホルモン感受性リパーゼ(HSL)欠損マウスでは有意な増加を認めないことを見出し、この現象におけるHSLの必須な役割を見出していた。そこで初年度には、このHSLの重要な役割が、どの組織のHSL作用によるものであるかを解明することを目指して研究を行った。 「HSL欠損ではインスリンによるリポ蛋白リパーゼ(LPL)活性の低下がおきないために高TG血症とならない」という仮説のもと、STZ投与下の野生型マウスとHSL欠損マウスにおいて、血中LPL活性の測定を行った。ヘパリン静注後1分から15分まで段階的に採血した血漿を用いてタイムコースで検討したが、驚いたことにgenotypeによる差、STZ投与による差を認めなかった。この結果は従来信じられていた、「インスリン欠乏下ではLPL活性が低下し、血中TGが上昇する」という定説を覆すものであり、大変意義深い結果であった。また、精巣周囲白色脂肪組織における、内因性のLPLインヒビター(angptl3、angptl4)、LPLの成熟因子(Lmf1)、LPLのトランスポーター(GPIHBP1))の発現解析を定量的PCRで検討したが、有意な結果は得られなかった。 以上の結果から、「STZ誘発性高TG血症には、小腸からの脂質吸収/カイロミクロン(CM)合成が重要であり、この過程にHSLが必須である」という、もう一つの可能性がクローズアップされ、現在、小腸における脂質吸収蛋白であるCD36をはじめ、脂質吸収・合成系の各種蛋白の定量的PCRやタンパク量測定などの解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究の第1の目的は、インスリン欠乏時の高TG血症とHSL欠損によるrescueの原因が、TGリッチリポ蛋白(TGRL)異化経路にあるのか、小腸におけるCM合成経路にあるのかを明らかにすることであった。TGRL異化経路の可能性については、post-heparin plasmaを用いたLPL活性などの検討から、ほぼ否定的であることが明らかになっており、順調な成果であると言える。 現在は小腸におけるCM合成経路の可能性を明らかにするために、小腸に発現している脂質吸収・合成系の各種蛋白の定量的PCRなどの解析を進めており、同時並行で胸管からのCMを含むリンパ液回収法の技術習得を行っており、こちらの可能性についても近く明らかにできる見通しとなっている。
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今後の研究の推進方策 |
小腸におけるCM合成経路の可能性を明らかにするために、胸管からのCMを含むリンパ液を回収して、genotypeごとあるいはSTZ投与の有無による差異を検討予定である。また、[14C]triolein、[3H]retinolの投与により、脂質吸収/CM合成をin vivoで評価することも検討している。 インスリン欠乏時の高TG血症の原因がCM合成経路にあると確定した場合、HSL欠損マウス由来の培養小腸上皮細胞を用いた脂肪吸収能、CM合成能の検討を行い、小腸のHSL機能を解明する。HSLは小腸で発現していることが知られているが、その小腸での生理的重要性や機能は明らかでない。HSLの基質はTG、ジアシルグリセロール(DG)だけでなく、コレステロールエステル(CE)、レチニルエステル(RE)など多岐に渡る。これらin vitro系の解析においては、HSL代謝産物を添加するなどの検討も行い、HSL代謝産物が生理活性脂質として機能し、上記生理現象の原因である可能性を検討する。 さらに、HSL阻害剤を用いた検討も行う。HSLの阻害剤は複数あり、その阻害標的となる基質特異性が異なる。これらのHSL阻害剤を用いたin vivo、in vitro検討を行い、上記で得られたSTZ誘発性高TG血症におけるHSLの役割が、HSLのどの基質に対する酵素活性に由来するものであるかを明らかとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究に必要なマウスの飼育施設、解析装置、顕微鏡、RT-PCR解析装置、X線フィルム現像機などは研究実施場所に備わっており、主な支出は実験用のマウス購入費、マウスの維持に必要な経費(餌、床敷など)の他、STZなど動物投与用試薬、血糖測定機器、血中TGやFFA、ケトン、インスリンなどを測定するための各種測定キット類、RNAやタンパクを抽出するための各種試薬、細胞培養関連費、RI実験試薬、ピペットやチップなどプラスチック製消耗品などである。 また、研究成果を発表するために必要な出張旅費および論文発表時の諸経費などにも充てる。
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