研究課題/領域番号 |
24790917
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
藤川 誠 東京理科大学, 薬学部, 助教 (90573048)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 生体エネルギー代謝 |
研究概要 |
MASC アッセイ法は接着細胞を 96ウェルプレートに播種し、簡便にミトコンドリアのATP 合成活性を測定できる方法である。本課題は、MASC アッセイ法を利用したスクリーニングにより ATP 合成に関わる新規因子を同定することを目的とした。初めに、ATP 合成酵素の主要なサブユニット ATP5A1 (αサブユニット)を標的とした microRNA (以後、miR) 発現ベクターを構築して、MASC アッセイにより ATP 合成活性への影響を評価した。miR ベクターをトランスフェクションして 48時間から 96時間における ATP 合成活性を測定したが、顕著な変化が得られなかった。これらの主な理由は、ウエスタンブロットなどの実験から、miRベクターによるトランスフェクションのみでは FoF1-ATP 合成酵素を十分にノックダウンできないためであることがわかった。そこで、miR ベクターをトランスフェクションした 24時間後に、miR ベクターに付随した薬剤耐性遺伝子を利用して薬剤選別を行った。さらに、1回目のトランスフェクションから 48時間後に、再び miR ベクターをトランスフェクションし、最終的には初めのトランスフェクションから 96時間後に MASC アッセイ法により ATP 合成活性を測定した。この改善により、αサブユニットのノックダウンによる十分な FoF1-ATP 合成酵素の ATP 合成活性の減弱が認められた。さらには、FoF1 に相互作用するがその機能はわかっていない MLQ 蛋白質に対しても同様に miR ベクターでノックダウンしたところ、FoF1 による ATP 合成活性に必要である事が分かった。以上のことは、分子生物学会・細胞生物学会・EBEC(ドイツ)において発表し、MASC アッセイによるスクリーニングの有用性を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は 2カ年計画である。平成24年度はその 1年目で、当初の計画は MASC アッセイ法を用いたスクリーニング実験系の条件検討であった。初年度の計画はほぼ完了することができたので、及第点はいただけると考えている。しかし残念ながら、決して満点ではなかった。その理由は以下の 2点が挙げられる。 1) 予算組の甘さ: 当初の計画では人工合成した siRNA をトランスフェクションして機能未知遺伝子-ノックダウン細胞の ATP 合成活性を評価する予定であったが、人工合成 RNA を 149遺伝子に対して設計・合成するための予算が不足することが判明した。申請書の段階で、要求された満額予算が認められない可能性も踏まえて、標的遺伝子の絞り込みを行う必要があったと思われる。それ故に、siRNA ではなくベクターベースの miR 発現系で標的遺伝子をノックダウンする方法に変更せざるを得なくなった。幸いにも、miR 発現ベクターをトランスフェクションする方法でも ATP 合成活性の影響を評価できる系を確立することができたが、認可された時の予算配分がどの程度全体の研究計画に影響を与えるのかを予め考えるべきであり、計画の甘さがあったことを認めざるを得ない。 2) 前倒し請求による予算執行すべきであった: 初年度計画していたスクリーニングの実験系は比較的順調に進み、平成24年度末の数ヶ月前にはほぼ確立されていた。したがって、基金化されている本研究課題であれば前倒し請求して、機能未知遺伝子の幾つかについてはスクリーニングを開始することができた。そもそも、「初年度は実験系の確立、2年目はスクリーニング」という計画の作業配分もバランスが良くなかった。いただいている予算を効率よく執行するためにも、研究課題がスムーズに進むような計画を設計すべきであった。
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今後の研究の推進方策 |
(1) ライブラリーの構築: ミトコンドリア局在性蛋白質のデータベース (MitoCarta) から既に絞り込み済みの機能未知蛋白質 149種類をノックダウンするための miR 発現プラスミドライブラリーを構築する。これは、標的遺伝子のセンス鎖・ループ配列・アンチセンス鎖をつないだオリゴ DNA およびその相補鎖オリゴ DNA を合成・ハイブリダイズして得られた二本鎖 DNA を miR 発現ベクター pcDNA6.2_GW/miR に挿入して構築する。 (2) MASC アッセイ法を用いたスクリーニング: (1) で構築したプラスミドライブラリーを HeLa 細胞に対してトランスフェクションし、薬剤選択しながら再度トランスフェクションする。最初のトランスフェクションから 96時間後に、MASC アッセイ法を用いて ATP 合成活性を測定し、コントロールと比較する。 (3) 得られた候補遺伝子の再現性確認: (2) にある一過的遺伝子導入によるライブラリー遺伝子のノックダウン法は、プラスミド純度のばらつきなどトランスフェクション時の様々な外乱が考えられるので、候補遺伝子については安定的ノックダウン細胞をレトロウイルス法により作製して、ATP 合成活性への影響を再度 MASC アッセイ法で測定する。 (4) 候補遺伝子の機能解析: (2) および (3) から ATP 合成活性に影響を与えた候補遺伝子について、作用点を探索する。MASC アッセイ法は、呼吸基質や阻害剤を組み合わせることで TCA サイクル・呼吸鎖複合体 I, II, III, IV・FoF1-ATP 合成酵素のどこに影響があるかを推定することができるので、これら候補遺伝子の安定ノックダウン株の ATP 合成活性能を調べて、候補遺伝子産物がどのようにして生体エネルギー合成に関与しているかを推定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題で最重要の miR 発現ライブラリー構築において、多くの研究費を充当する予定である。miR 発現ベクターは T-ベクターと同様に、自前で増幅させて使い回すことができないことに加えて、149種類の各遺伝子につき二種類の miR を設計するため、ベクター構築に約90万円を要する。設計した miR の基となる挿入 DNA 断片を合成オリゴで作製するため、合成オリゴ製造費に約70万円を見込んでいる。構築したプラスミドベクターの配列確認のためにシーケンス解析に約40万円必要である。 MASCアッセイスクリーニングにおいて、コラーゲンコートした 96ウェルプレートに 25万円程度、細胞透過処理に必要な精製蛋白質ストレプトリシンO に 7万円、ATP 検出のためのルシフェラーゼアッセイに 8万円程度必要である。 以上をまとめると 240万円程度が必要となる。平成25年度の物品費は 225万円のために若干予算を超えてしまうので、標的遺伝子の数を 149種類から減らすことはやむを得ないと考えている。実際には、miR 発現ベクターを構築したものから順次、MASC アッセイ法により ATP 合成活性を測定するので、合成活性に影響を与える遺伝子を同定次第、再現性の確認と作用点の同定など次のステップへ移り、執行する予算の最大効率化を計る。 また、細胞生物学会、分子生物学会および生体エネルギー研究会に参加し、情報収集および本研究課題の成果発表をする予定で、国内旅費として 15万円を計上している。
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