研究課題/領域番号 |
24790918
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
仙田 聡子 富山大学, 大学病院, 短時間勤務医師 (40597770)
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キーワード | 糖尿病 / 低酸素 / HIF-1α / マクロファージ |
研究概要 |
2型糖尿病やメタボリックシンドロームは、内臓脂肪組織の慢性的な炎症によりインスリン抵抗性を来すことが病態の基礎にある。この肥満時の脂肪組織の慢性炎症では、マクロファージが炎症の主体となる。また肥満時には内臓脂肪組織の低酸素が進行することから、脂肪組織マクロファージにおける低酸素誘導転写因子(HIF-1α)の役割を解明する目的で本研究を開始した。 方法としてマクロファージ特異的HIF-1α欠損マウス(Hif1欠損マウス)の高脂肪食負荷による肥満時の代謝異常に与える影響を解析した。 Hif1欠損マウスは16週間の高脂肪食負荷後、すなわち内臓脂肪組織における慢性炎症の病態が確立している肥満維持段階での全身の耐糖能・インスリン抵抗性の改善を認めた。内臓脂肪組織では炎症性マクロファージの浸潤数の減少、炎症性サイトカインの遺伝子発現の減少、アディポネクチンやPGC-1αなどの遺伝子発現の回復傾向を認め、エネルギー代謝が改善していた。内臓脂肪組織の低酸素は軽減していた。また脂肪組織の慢性炎症が軽減しただけでなく、肝臓や骨格筋での代謝も改善していた。これらの結果からマクロファージのHIF-1α欠損により、内臓脂肪組織の炎症が軽減し、肝臓や骨格筋をはじめとする全身の代謝組織に対する改善効果が示された。したがって、マクロファージのHIF-1αはインスリン抵抗を来す脂肪組織の慢性炎症の増悪因子であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高脂肪食負荷条件でのマウスの解析を中心に進めた。高脂肪食負荷は慢性炎症の確立した肥満維持期として16週間とした。体重、摂餌量の測定、耐糖能・インスリン抵抗性の評価は予定通り進行した。脂肪組織、肝臓、骨格筋の遺伝子発現、形態学的な解析においては脂肪細胞の大きさの比較や、CLS数など基本的な評価を終えた。HIF-1α欠損により脂肪組織の炎症の軽減のみならず、血管新生が増強していたことから血管の機能評価および血流の解析を追加し、進行中である。マウス骨髄由来マクロファージを用いた低酸素実験はrealtime PCRでの解析を行なった。 2年目に計画していた高脂肪食の程度による影響の検討を1年目に前倒しして開始し、30%HFDと60%HFDの比較を行なった。比較の結果、60%HFDの方がHIF-1α欠損による影響が大きいことが示唆された。 2年目に計画していた実験の一部を1年目に施行したこと、血管の機能評価などの実験を追加したことから、1年目に計画していた一部の実験は実施できなかったが2年目に実施可能と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
脂肪組織マクロファージにおけるHIF-1α欠損によって炎症、低酸素の軽減、血管新生が増強した分子メカニズムについての解析を進める。特に血管新生についてはHIF-1 αに制御される血管新生因子であるVEGFaの発現が低下しているにもかかわらず、再現性をもって生じた表現型であり解析すべきと考えられた。具体的には、まず①脂肪組織マクロファージと脂肪前駆細胞、血管内皮細胞などを分離して、炎症および血管新生関連の遺伝子発現の解析を行なう。②cell sortingによりマクロファージを炎症性のM1マクロファージ、抗炎症に働くM2マクロファージを単離し解析を行なう。 ③脂肪組織マクロファージおよびマウス骨髄由来マクロファージを低酸素条件で培養しHIF-1α欠損の影響を生化学的に解析する。すなわち、PCRでの遺伝子発現、Western blot法での蛋白の解析などによりHIF-1αの下流の遺伝子や競合する分子への影響について実験をすすめ、分子メカニズムを解明する。 また脂肪組織の低酸素や血管新生ついて、肥満初期と肥満維持期によってHIF-1αの影響が異なることが予想される。当初の予定通り、マウスの高脂肪食負荷による肥満初期と肥満維持期での比較を計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究は概ね順調に進展しており、2年目に予定していた実験を計画通り行う。 また前述のように1年目に得られた新たな知見から、追加の分子生化学的解析が必要である。 次年度交付額の使用内訳はマウスの飼育維持費に50万円(42%)を予定している。マウスの組織・培養細胞の免疫染色やFACS、レポーターアッセイに用いる抗体・ベクターなどの購入に50万円(42)%、一般試薬の購入に10万円(8%)、雑誌投稿のための英文校正に10万円(8%)を予定している。
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