研究課題
本研究の目的は、膵臓内において膵島新生がおこる部位を特定すると同時に、新生膵島を誘導する因子を探索することである。そのために、膵臓を三次元的に高解像度で解析できる画像解析技術を用いることで、新生膵島の膵臓内での分布を明らかにし、また、部位特異的情報を得、膵管からの新生膵島にかかわる分子を効率的に探索する。本研究では、まず、Optical Projection Tomography(OPT)を用いてマウス膵臓内の膵島および新生膵島、膵管、血管を三次元的に解析するための条件の探索および技術の確立をおこなった。最初に血管の染色についての検討を行った。血管の染色は、血管内皮細胞表面の膜タンパク質に蛍光物質を化学結合させることで行い、OPTでの観察が可能になることを確認した。また、その際、膵島も同時に染色し、それぞれ観察可能であった。膵管については、CD133抗体を用いて、膵臓の染色を行い、OPTにより検討を行った。しかしながら、膵管の染色について良好な結果は得られなかった。また、新生膵島を簡便に観察する系の確立のため、マウスの眼に膵島を移植し、観察することを試みた。まず、眼への移植系の検討を行い、その技術の習得を行った。単離した膵島をマウスの眼の虹彩上に移植を行った。移植する膵島は発光タンパク質であるルシフェラーゼを膵島特異的に発現するマウスから取り出した膵島を用いて行った。移植膵島の確認は、実体顕微鏡および、IVISシステムによるルシフェラーゼ観察により行った。その結果、実体顕微鏡下で膵島の観察ができ、IVISにより移植膵島の個数に応じたルシフェラーゼによる発光量の変化をとらえることが可能となった。
2: おおむね順調に進展している
新生膵島を観察するための準備として、膵島、血管をOPTで観察可能な条件を見いだせたことは非常に重要な結果であると考えている。また、新生膵島観察のための眼の虹彩上への膵島移植系を立ち上げ、移植した膵島細胞を定量的に観察できる系の確立に成功したことについても今後の計画に重要な手技の確立であったと考えている。とくに、移植膵島の増加による新生膵島の検知が可能となり、かつ、移植片を取り出すことで種々の遺伝子について簡便に調べることが可能になると考えている。
次年度は、まず、研究計画に基づき三次元的解析のための膵管の染色方法を探索し、膵臓内における膵島や血管などとの位置関係を明らかにするための条件検討をまず行う予定である。次に、新生膵島と既に存在する成熟膵島を区別するために、Ins2-cre/ERTマウス、CAG-loxP-pacECFP-loxP-DsRedT4マウス、MIP-GFPマウスを用いて新規のマウスの確立を試みる。上記3種類のマウスを用いたTgマウスは、インスリンを発現する細胞は成熟膵β細胞も新生β細胞もGFPタンパク質(緑色蛍光タンパク質)を発現している。このマウスにタモキシフェンを投与することで、投与時点でインスリンを発現している成熟膵β細胞特異的にCreを発現させDsRedT4(赤色蛍光タンパク質)を発現させることができる。染色により区別が可能になったのち、新規マウスを用いて新生膵島細胞、成熟膵島細胞の分布を比較する。マウス作製には時間がかかることが予想されるため、今年度立ち上げたマウスの眼への膵島移植系を用いていくつかの検討を行う。IVISシステムにより、移植膵島の増加が確認できた膵島について、移植前の膵島と遺伝子発現の比較を行う。増殖や分化、発生にかかわる遺伝子、具体的には、内分泌前駆細胞に発現するNgn3や膵島への分化に必要な遺伝子NeuroD, Isl1, Insm1や特に膵β細胞への分化に必要とされるPax6, Pax4, Nkx6.1などの発現を評価する予定である。
三次元観察用顕微鏡OPTのサンプル作製のため染色に必要な試薬や抗体、遺伝子発現を調べるためのプライマーや必要な実験器具、種々のプラスチック器具、ガラス器具などの消耗品、種々のマウスなどの実験動物に主な研究費を使用予定である。また、海外学会(アメリカ糖尿病学会、ヨーロッパ糖尿病学会など)や国内学会(日本糖尿病学会など)、シンポジウムへの参加に必要な参加費や旅費、OPT観察のために国立循環器病センターへの交通費についても必要に応じて使用予定である。
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