研究課題/領域番号 |
24790926
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
中司 敦子 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (00625949)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | メタボリックシンドローム |
研究概要 |
申請者はvaspinを発見し、内臓脂肪細胞から分泌されて、肥満やインスリン抵抗性、脂肪肝さらに動脈硬化を改善する代償因子であることを見出した。そして、vaspinは細胞表面に存在するGlucose Regulated Proteoin 78 (GRP78)と結合することで細胞内にシグナルを伝達するという仮説に達した。 本年度は、vaspinとGRP78の結合をpull-downでも確認し、さらに125Iでvaspinを標識して、binding assayを行い高親和性の結合であることを示した。 Vaspinの遺伝子改変動物(トランスジェニックおよびノックアウトマウス)の解析では、肝臓の糖脂質代謝に大きな変化がみられることから肝臓に注目した。マウス肝臓および培養肝細胞を用いて形質膜蛋白を精製して免疫沈降を行い、vaspinは形質膜においてGRP78, MTJ-1と複合体を形成していることを明らかにした。さらにその下流のシグナル伝達に関してAkt, AMPKのリン酸化を亢進させていることを証明した。培養肝細胞にリコンビナントvaspin蛋白を濃度を変えて添加した場合にも、濃度依存性にAkt, AMPKリン酸化が亢進することが明らかとなった。また、培養肝細胞を用いてレンチウイルスでGRP78, MTJ-1をノックダウンすると、vaspin蛋白を添加しても、vaspin濃度依存性のAkt, AMPKリン酸化が認められなくなった。以上から、vaspinは肝細胞表面のGRP78/MTJ-1複合体に結合し、Akt, AMPKリン酸化を亢進させることで糖・脂質代謝を改善させることが示された。さらにトランスジェニックマウスの肝臓ではeIF2α・IRE1αリン酸化が減弱し、ノックアウトマウスでは増強していたことから、vaspinは肝臓における小胞体ストレスを軽減させることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の平成24年度の計画として挙げていた、Vaspinの肝臓におけるインスリン抵抗性の改善作用の機序解明について予定通り検討をすすめることにより、vaspinは肝臓の細胞膜分画においてGRP78, アンカープロテインであるMTJ-1と複合体を結合していることを明らかにし、さらにvaspinがGRP78・MTJ-1複合体に結合するとAktシグナル, AMPKシグナルを増強させ、また小胞体ストレスを軽減することで糖脂質代謝を改善させるという機序をと証明した。さらにこの成果をDiabetes. 2012 Nov;61(11):2823-32. に報告した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、vaspinの動脈硬化への作用について、遺伝子改変マウスの大腿動脈擦過実験や、培養血管内皮細胞を用いたアポトーシス抑制効果の検討、また作用メカニズムの検証を行う。 まず、マウス血管内皮細胞へのVaspinの作用に関して、Tg・KOマウスの大腿動脈にcuff injuryを施し、2週間後動脈を採取し染色を行って内膜/中膜比を求める。ラットの頸動脈にadenovirusでvaspinを発現させ、baloon injuryを施行し、内膜肥厚の程度や、定量RNAでMCP-1, PDGF, PDGFR などの発現量を検討し、WTマウスにおける結果と比較する。 次に、培養大動脈内皮細胞(HAEC)を用いた予備実験では、HAECにvaspinを添加すると、vaspinの濃度依存性にAktリン酸化が亢進することを確認している。shRNA lentivirusでGRP78やVDACをノックダウンした場合、vaspin濃度依存性のAktリン酸化亢進が消失することを示す。また、形質膜蛋白を精製して免疫沈降を行い、vaspin, GRP78, VDACが複合体を形成することを検証する。さらにKringle 5はVDACのリガンドとして作用し、血管内皮細胞にアポトーシスを誘導することが知られている。GRP78とvaspinの結合を検証するpull-down assayの系、および上記125I-vaspinを用いた結合実験の系において、Kringle 5蛋白を添加するとGRP78とvaspinの結合が低下するかどうかについて、またカルシウムアッセイ(Fluo-4)を用いて、Kringle 5による細胞内のカルシウム濃度の上昇をvaspinが抑制しうるかについて検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
培養実験の予定が遅れたため、これを平成25年度に引き続き行う予定であり、次年度分と合わせて、培養試薬の購入費用に使用する。
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