研究課題/領域番号 |
24790932
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
佐藤 叔史 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (90622598)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 糖尿病 / インスリン分泌 / 転写因子 |
研究概要 |
<目的>転写因子HNF4αは、膵β細胞からのインスリン分泌に必須の分子である(Miura A. JBC 2006)。低酸素ストレスによりHNF4α遺伝子の発現が低下するが、その分子メカニズムを明らかにすることが本研究の課題である。平成24年度は、1) HNF4α発現低下に関与している低酸素シグナル経路の同定、2) 低酸素によるHNF4α蛋白発現調節機序について、MIN6膵β細胞株を用いて検討を行った。 <研究実績>①低酸素はHIF経路を活性化するが、HIF-1αの過剰発現細胞、およびHIF-1αノックダウン細胞を用いた解析よりHIF経路の関与は否定的であった。②一方、MetforminやAICARを用いた検討よりAMPKの活性化がHNF4αの発現低下に関与していることが明らかになった。③低酸素によるHNF4α発現の低下は、蛋白レベルと転写レベルで乖離しており、転写調節による制御は軽度であり、むしろ翻訳後修飾により強く制御されていると考えられた。④シクロヘキシミドでタンパク合成を抑制した時のHNF4α蛋白の分解速度について検討したところ、MetforminによるAMPK活性化時にHNF4α蛋白は積極的に分解されていた。⑤またその分解促進は阻害剤MG132で抑制されることからプロテアソーム系を介した蛋白分解機構が関与していると考えられた。 低酸素で発現誘導される遺伝子群は、HIF経路の影響を受けることが多いが、今回HIF経路の関与はなく、低酸素で活性化されるAMPKがHNF4α発現低下に重要な役割を果たしているという新知見が得られた。分子機序としても非常に興味深いが、β細胞機能の回復を目的とした治療薬の開発に繋がるのみならず、AMPKを治療標的にした糖尿病治療薬が汎用されており薬剤選択の際に有用な情報となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度(平成24年度)の目標としては、1) 低酸素によるHNF4αの転写調節の検討、および2) 低酸素の下流シグナルの検討を行うことを予定していた。研究を進めて行く上で蛋白レベルでのHNF4α発現制御に注目したため、当初予定した転写調節を中心とした研究計画から変更を余儀なくされたが、上記(平成24年度の研究実績)に示したように、① HNF4α発現低下に関わる低酸素シグナル経路の同定、② 低酸素によるHNF4α蛋白発現調節機序についておおよその検討を終了し、次年度の課題に繋がるデータを得て、次の方向性を見出すことができた。これより、本研究プロジェクトはおおむね順調に進めることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の検討より、MIN6膵β細胞株において以下のことが明らかになった。 ①低酸素でHNF4αの発現が低下する。②低酸素で活性化されるAMPKがHNF4α低下に重要な役割を果たしている。③AMPKの活性化時にはHNF4α蛋白の安定性が低下し、分解されやすくなる。④その分解にはプロテアソームによる分解調節機構が働いている。 これらIn vitroで見ることのできた諸現象が、In vivoにおいても確認できるかを平成25年度に検討する予定にしている。具体的には、1) 生体内における低酸素によるHNF4αの発現調節の検討、2) 生体内における低酸素シグナル経路の検討を行う。In vivoでの再現はin vitroより複雑であることが予想されるが、条件を最適化することで少しでもin vivoで再現できることを目指す。また、研究の方向性に行き詰まった際には、本研究プロジェクトに携わる研究協力者の指導協力を仰ぎ、打開策を模索する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究を遂行する上で、マウスを低酸素に曝すために酸素濃度を調節できる専用の容器(ガス置換用グローブボックス)と酸素モニターが必要とし研究計画書に計上していたが、平成24年度の研究費でガス置換用グローブボックス(1台)、酸素モニター(1つ)は購入済みである。平成25年度は実験動物(C57BL/6Jマウスなど)の解析を積極的に実施するため、実験動物購入、維持費用に加え、生化学、分子生物学、生理学的解析に用いる試薬、抗体、培養液などに研究費を使用する。なお全体の研究経費の90%を超えるものや特に大きな割合を占める経費はない。
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