研究課題/領域番号 |
24790939
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
諏訪内 浩紹 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (60624939)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 膵β細胞 / PI3K / GLP1 |
研究概要 |
当研究グループは、PI3キナーゼ(PI3K)がインスリンの分泌を調節する鍵分子であることを解明してきた。そこで、β細胞のGLP-1シグナルとPI3Kの解明を中心に行なっている。β細胞特異的PI3Kノックアウトマウスと野生型マウスの単離膵島からメッセンジャーRNAを抽出しマイクロアレイ解析を行った。その結果、アポリポタンパク質、コレステロールのトランスポーターであるABCA1、LDL受容体が低下しており、脂質代謝異常が生じていることが示された。また、GLP1受容体の発現低下や、チトクロームp450などのミトコンドリア関連遺伝子の発現が著明に低下していることが解明された。 浸透圧ポンプにてGLP1アナログを投与した野生型マウスでは、腹腔内ブドウ糖負荷試験によりインスリン分泌が上昇し高血糖が抑えられるが、β細胞特異的PI3Kノックアウトマウスではインスリンの分泌は抑制され高血糖が生じた。つまり、β細胞特異的PI3Kノックアウトマウスでは、GLP1シグナルがβ細胞に十分に入らないことがわかった。この現象はマイクロアレイ解析で示されたようにβ細胞においてGLP1受容体の発現が低下していることから生じていると考えられた。膵β細胞のインスリン分泌低下は、以前より脂肪毒性やミトコンドリア機能の低下が一因と報告されている。また近年、microRNAによって脂質代謝やミトコンドリア機能が制御されることが解明されている。そのため、アジレント社製miRNAアレイ(Mouse 8x60K Rel.17.0)を利用し、膵β細胞のmicroRNAマイクロアレイ解析を行った。その結果、1157プローブ中、32のmicroRNAの発現が増加。36のmicroRNAの発現が低下していた。In silico解析により、これらのmicroRNAの一部が脂質代謝遺伝子などの発現を低下させることが予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的には、1)β細胞のGLP-1シグナルとPI3Kの解明、2)GLP-1アナログのα細胞に対するグルカゴン抑制など、β細胞以外の作用機序、3) β細胞での PI3Kシグナルの働きを高める薬物の探索、の3つがあり、現在の研究は概ね順調に進展していると考える。 1)β細胞のGLP-1シグナルとPI3Kの解明は、マイクロアレイ解析、microRNAのマイクロアレイ解析によりPI3Kノックアウトマスでは、膵β細胞の脂肪毒性、GLP1受容体の発現低下、ミトコンドリア機能の低下という発見があった。また、2)GLP-1アナログのα細胞に対するグルカゴン抑制など、β細胞以外の作用機序、3)β細胞での PI3Kシグナルの働きを高める薬物の探索についても、並行して実験モデルマウスの作成、ベクターの作成など順調に進展していると考える。 一方で、膵β細胞が多く含まれているラ氏島は非常に小さな臓器で、1匹のマウスより、膵臓の中でも50-100個程度しか採取できない。当初の研究計画では、予想していなかったmicroRNAのパスウェイ解析という課題が新規に出てきている。microRNAのマイクロアレイ解析には大量のRNAが必要で、複数のマウスより1サンプル分のRNAが採取することとなった。また、ラ氏島の初代培養細胞は不安定で、グルコース応答性インスリン分泌は長く維持できないため、機能解析が難しい。現在は、MIN6細胞というβ細胞株にてin vitroの予備実験を行なっている。これら、予備実験を重ねることで、実験系の確立を行ってゆく必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、引き続きβ細胞特異的PI3KノックアウトマウスとGLP-1アナログの評価を詳細に行う。特に、β細胞でGLP1受容体の低下、脂肪毒性、ミトコンドリア機能低下がどのようなメカニズムで生じているのかを解析する。具体的には、膵島の組織学的な評価や、膵島を単離しRNAやタンパク質のシグナルをGLP-1アナログ投与とそのコントロール群において行う。また、in vivoのみならず、in vitroでの実験も平行して行う。現在、MIN6細胞といったβ細胞株にPI3K阻害薬を投与、GLP1受容体の発現、脂肪毒性、ミトコンドリア機能の評価の他、microRNAの解析を行っている。 また、β細胞におけるmicroRNAの役割、新しいパスウェイを発見することを目標としている。microRNAの解析を行い、インスリン分泌を阻害するmicroRNAが高発現をしている場合、そのmicroRNAを阻害するような物質を探索する。microRNAの遺伝子をベクターに組み込み細胞内で強発現させることで、標的となるメッセンジャーRNAの発現・機能低下を評価する。また、インスリン分泌を阻害するであろうmicroRNAに対するアンチセンスを設計、β細胞で強発現させることでインスリン分泌能力の改善を検討する。 また、GLP-1アナログのα細胞に対するグルカゴン抑制など、β細胞以外の作用機序についても解明を行なう予定である。現在、glucagon-CreノックアウトマウスをPI3K flox/floxマウスと交配し、膵α細胞特異的PI3Kノックアウトマウスを作成している。すでにヘテロ欠損マウスは生まれており、ホモ欠損マウスを作成している。膵α細胞特異的PI3Kノックアウトマウスは数ヶ月以内に作成を完了し、ブドウ糖負荷試験、高脂肪食負荷などの実験を順次予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に、細胞生物学研究や、マウスの研究を遂行するための消耗品のために研究費を使用する。そのため、細胞培養試薬・器具、分子生物学・生化学試薬、実験用マウス・マウス飼料の購入を予定している。また、学会発表のための旅費も計画している。それぞれ、消耗品80万円、旅費30万円、その他50万円、計160万円の支出を予定している。
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