研究課題/領域番号 |
24790944
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
木村 真希(小柳真希) 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (40623690)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 膵β細胞量 / mTORC1 |
研究概要 |
高脂肪食飼育下24週齢 GCN2-/-マウス(HFD GCN2-/-マウス )の耐糖能は野生型と比べて有意に悪化し、膵β細胞量は有意に減少した。HFD GCN2-/-マウス の膵島では、mTORC1シグナルの亢進により、ネガティブフィードバックを介したインスリンシグナル低下をきたし、膵β細胞量が減少していると考えられた。 HFD GCN2-/-マウス の膵島におけるmTORC1シグナル亢進の機序を明らかにするため、通常食(NCD)もしくは高脂肪食で飼育したC57BL/6Jマウスの膵島でGCN2の活性を比較したところ、HFDマウスの膵島で有意な活性化が認められた。HFDマウスにおいてはインスリン需要の亢進により、膵β細胞でインスリンの翻訳が亢進していると考えられる。膵β細胞にグルコース刺激を行うと、プロインスリンの翻訳が著明に増加することが知られているが、グルコース刺激INS-1細胞ではGCN2が活性化され、その活性化はシクロホスファミドによる蛋白翻訳阻害で、打ち消されることが確認された。これらの結果を考慮すると、膵β細胞ではインスリンの翻訳が亢進することで、GCN2が活性化するのではないかと考えられた。そこで我々は、HFDマウスではインスリンの需要が高まり、膵β細胞におけるインスリンの翻訳が亢進しているためにGCN2が活性化しているという仮説を構築した。その仮説を検証するため、NCDとHFD下に飼育したマウスの膵島内におけるアミノ酸濃度を測定したところ、HFDマウスの膵島ではアミノ酸全般の濃度低下が認められた。したがって、膵β細胞でインスリン蛋白の翻訳が亢進し、膵β細胞内のアミノ酸濃度が低下することにより、free tRNAの増加をリガンドとしてGCN2が活性化していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの解析にてHFD GCN2-/-マウスは膵β細胞量の減少を示すことが明らかとなり、mTORC1シグナルの恒常的亢進によるネガティブフィードバックが、インスリンシグナルの低下から膵β細胞量を引き起こす一因であると考えられた。HFDでインスリン需要が増加し、相対的に膵β細胞内のアミノ酸の濃度が低下することによりGCN2が活性化され、膵β細胞量の維持に関与していることが示唆された。HFD GCN2-/-マウスは、GCN2にSNPを有する2型糖尿病患者における過食、インスリン過剰合成を背景とした膵β細胞不全、糖尿病発症機構のモデルの一つとなる可能性が期待される。今後、現在作製済の膵β細胞特異的GCN2欠損マウスを用いて、解析を続ける予定である。
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今後の研究の推進方策 |
①マウス膵β細胞株におけるGCN2の発現・活性化、およびmTORC1活性化の検討 マウス膵β細胞由来であるMIN6細胞に各種刺激を与えることによって、GCN2の発現および活性化に及ぼす影響を検討する。具体的には、ロイシン・バリン・イソロイシンなどの分岐鎖アミノ酸のいずれかを添加しない培地にてMIN6細胞を培養し、GCN2の発現・活性化を比較検討する。また活性化されたGCN2はmTORC1活性を抑制することが報告されていることから、各種刺激時のインスリンシグナル、特にTSC2/mTOR経路に関しての評価を行う。 ②マウス膵β細胞株におけるアミノ酸誘導性インスリン分泌能の検討 MIN6細胞を用いて、各種アミノ酸の濃度勾配を変化させた条件下でインスリン分泌能の評価を行う。また、アミノ酸欠乏により活性化されるGCN2がインスリン分泌能に関与しているかを確認するために、siRNAを用いてGCN2ノックダウンMIN6細胞を作製し、アミノ酸含有培地および不含培地それぞれについてインスリン分泌量を測定する。 ③高脂肪食負荷全身性GCN2欠損マウスにおける血中アミノ酸濃度の測定 高脂肪食負荷全身性GCN2欠損マウスの血中アミノ酸濃度を測定し、有意に減少しているアミノ酸を抽出する。また膵β細胞に対する直接的な影響を考慮するため、単離膵島中のアミノ酸濃度も測定する。 ④膵β細胞特異的GCN2ヘテロ欠損マウスにおけるアミノ酸投与が膵β細胞量に及ぼす影響の検討 上記で得られた結果をもとに、濃度の減少が有意であったアミノ酸多く含有する食餌を膵β細胞特異的GCN2ヘテロ欠損マウスに投与する。日本人2型糖尿病患者モデルをより忠実に再現するために、GCN2ヘテロ欠損マウスにアミノ酸含有食を投与することで、mTORC1活性が適度に抑制され、インスリンシグナルが回復し膵β細胞量が維持されると予想される。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記③④に関しては、既にマウスを作製済であり次年度は主にマウスや培養細胞を用いた各種負荷実験やインスリン分泌能評価やアミノ酸濃度測定、ウェスタンブロット法やリアルタイムPCRなどの実験が主となる。そのための一般試薬代に研究費を充てる予定である。また、次年度に学会発表・論文発表を予定している。
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