研究課題
これまでにマウスES細胞を用いたインスリン産生細胞分化誘導法を構築している。この手法をもとに1300個の既知の低分子化合物をスクリーニングし、インスリン陽性細胞数を増加させる10のヒット化合物を同定している。これらの全てについて濃度依存的に効果を示しマウスES細胞分化における最適濃度を明らかにした。続いて化合物の中から最も効果が高かった化合物を中心に研究を進めた。具体的には化合物の作用としては標的分子の機能阻害により膵β細胞の分化効率が上昇したと予想されたため、この作用に関して分子生物学的手法、免疫組織学的手法を用いて詳細な作用機序について検討した。shRNAによる遺伝子ノックダウンを試みたところ、標的分子の発現を抑制することで化合物添加と同様の結果を得た。また、この化合物の作用はインスリン陽性細胞のみならず膵内分泌細胞のすべてを増加させる作用が認められた。化合物の効果が膵β細胞分化のどの過程に効果をもたらすか解析したところ、膵前駆細胞から内分泌前駆細胞への分化を促進することを明らかにした。さらに標的の異なる化合物の組み合わせ添加によってインスリン産生細胞を増加させるだけでなく成熟化、すなわちグルコース濃度に応答したインスリン分泌能を有する細胞を分化させることができた。In vitroで誘導した細胞を糖尿病モデルマウスへ移植したところ、移植後1か月の間に血糖値の改善効果がみとめられた。本研究において確立した低分子化合物を用いたES細胞の分化手法により機能的なβ細胞を分化誘導することができた。これらの知見がヒト多能性幹細胞へ応用できるかどうかに関して今後研究を進めていくため、まずノックアウトマウスを作製し発生学的な表現型の変化について解析を進めている。これらの試みにより将来的にヒトES細胞またはiPS細胞を用いた糖尿病治療に貢献できると考えている。
2: おおむね順調に進展している
複数のヒット化合物の中から標的分子群に焦点を当て過去の研究において困難であった分化過程を改善することができた。前年度までに分子メカニズムを特定することができたことから、研究に時間を要する標的遺伝子の組み換えマウスの作製をいち早く開始したため、予定より早く細胞特異的遺伝子欠損マウスの作製を進めることができている。また、糖尿病モデルマウスへの移植実験は当初問題としていた移植後の細胞の生着率を記述的な改良を試みることで克服できたと考えている。これらのことから研究の進行は順調である。
本研究において特定の細胞間のシグナル伝達が膵β細胞の分化・成熟化に関与していることが明らかとなった。膵臓の発生過程において本研究により見出された細胞間シグナル伝達がどの時期にどのような細胞間で行われているかを知ることが今後の課題であることから、現在までに得た知見をもとに膵臓の発生過程において膵臓系譜の細胞特異的に関連遺伝子を欠損するコンディショナルノックアウトマウスを作製・解析する。また、ヒト多能性幹細胞への技術応用が可能かどうかに関しても検討を進める。
該当なし
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