研究概要 |
近年、糖尿病に合併した臓器障害に対して、ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬追加投与の有用性が報告されている。糖尿病では血漿アルドステロン濃度は必ずしも高値ではないことから、MRのアルドステロン感受性が亢進している病態が推測される。O-linked β-N-acetylglucosamine(O-GlcNAc)修飾は高血糖で誘導される糖鎖修飾で2型糖尿病の病態と関連が深く、本研究ではO-GlcNAc修飾がMRの活性に及ぼす影響について検討を行った。 平成24年度までの研究では、質量分析法と点変異体を用いた解析の結果、MRの295, 298, 299位のセリン残基が本修飾の標的であることが明らかとなり、これらの変異体では修飾の減弱とともに蛋白発現量の減少、転写活性の低下(野生型の20-60%)を認めた。さらに、9週齢のdb/dbマウス、対照群のdb/+マウスの腎組織を解析し、db/db群では組織O-GlcNAcレベルの増加とともにMR蛋白発現量およびMRの標的遺伝子であるSGK1のmRNAが対照群と比較して有意に増加していることを見いだした。平成25年度は、さらにdb/dbマウスへのO-GlcNAc修飾阻害薬, 6-diazo-5-oxo-L-norleucin(DON)の投与実験を行った。9週齢のdb/dbマウスにDONを3μg/kg, 5日間投与したところ、腎組織のO-GlcNAcレベルが抑制されるとともに、MR蛋白発現量の減少を認めた。MRのmRNAレベルはDON非投与群と投与群で同等であった。 以上の結果から、糖尿病において、O-GlcNAc修飾の増加によりMR蛋白が安定化し、アルドステロン感受性が亢進することがin vitroおよびin vivoにおいて示された。本研究結果は、現在、糖尿病症例に対する使用が限定されているMR拮抗薬の積極的な使用を支持する新たな根拠になりうると考えられる。現在、遺伝子改変動物を作成し、腎尿細管や糸球体におけるMRのO-GlcNAc修飾の意義について、さらに研究を進めている。
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