申請者らは以前に、試験管内でマウス胚性幹細胞(ES細胞)から下垂体前駆組織(ラトケ嚢)を高効率で誘導する方法を開発し、そこから分化したACTH分泌細胞がin vitro、in vivo双方で機能することを示した。一方、ES細胞からのGHやLH/FSH分泌細胞への分化は、未だ低効率で、機能性も未確認である。本研究では、試験管内分化法でマウスES細胞からGH、LH/FSH分泌細胞分化の高効率化を行い、それらの機能的移植法を開発するのを目的とした。 研究開始当初、マウスES細胞由来の下垂体前駆組織の誘導効率が以前よりも低いという問題が発生した。種々の検討の結果、マウスES細胞の維持培養や分化に用いるKSRおよびFBSのロット変更が原因と判明した。そこで、マウス胎児におけるラトケ嚢発生機序を参考に、マウスES細胞からの分化誘導法の改良を試み、物質Xを添加することで、ロットの違いに影響されず高効率で口腔外胚葉を誘導できる分化法を確立した。また、そこに物質Yを添加することで、KSRやFBSのロットに影響されず、高率でラトケ嚢様組織を誘導することに成功した。 GH分泌細胞は、Lim3発現の後、Prop1、Pit1の順に発現する系譜であることが報告されており、試験管内培養でもまず、Prop1発現をマーカーとして検討した。発生上、ラトケ嚢の腹側に発現が認められるBMP2がProp1を誘導する効果があることが判明した。また、胎児において、Notch刺激がProp1を誘導することが報告されており、試験管内培養でNotchのリガンドであるDLL1やDAPTによるNotch刺激がProp1およびその下流のPit1を誘導することが判明した。
|