研究課題/領域番号 |
24790968
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
片桐 孝和 金沢大学, 保健学系, 助教 (60621159)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 再生不良性貧血 / uniparental disomy / HLA |
研究概要 |
再生不良性貧血症例の約13%において、6番染色体短腕の片親性ダイソミー(6pUPD; 6p uniparental disomy)が認められることが明らかになっている(Katagiri T, et al. Blood.2011; 118(25):6601-6609)。 今年度の研究では、まず6pUPD陽性例の検出数を増やすことができた。また、骨髄中の各造血前駆細胞における6pUPDの分布を確認したところ、CMP(common myeloid progenitor)においては、約1-10%のみが6pUPDを起こしていたのに対し、CMPから造血分化が一段階進んだMEP(megakaryo erythoroid progenitor)およびGMP(granulocytic macrophage progenitor)においては、末梢血中の単球や顆粒球において認められる6pUPDの割合とほぼ一致して、約60-90%が6pUPDを起こしていることを明らかにした。このように、各造血前駆細胞において6pUPDの割合に乖離が認められる原因として、造血分化に関与する何らかの分子の発現が異常に亢進している(または抑制されている)ことが予測されたため、6pUPD陽性の3症例と健常人2名を対象に、CMP、MEP、GMPにおいて、6pUPDを起こしている分画と起こしていない分画をそれぞれソーティングし、RNAを抽出した後に、マイクロアレイ解析を実施した。現在統計学的解析を行っている段階であり、これにより特定分子の発現に異常が確認された場合には、その分子が正常造血においても分化および増殖を制御している可能性が考えられるため、マイクロアレイ解析から得られる結果が極めて重要である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究計画においては、6pUPD(6p uniparental disomy)陽性例の検出数を増やすことが研究計画の1つであった。当初の計画通り、再生不良性貧血における6pUPDの検出を継続し、6pUPD検出数を増やすことができた。(6pUPD陽性率は、従来通り約13-14%において認められた。)また、各骨髄前駆細胞における6pUPDの分布を検討し、その結果から、CMP(common myeloid progenitor)とMEP(megakaryo erythoroid progenitor)およびGMP(granulocytic macrophage progenitor)における6pUPDの割合の乖離についても、症例数を増やして検討することができた。その結果、いずれの症例においても、CMPにおける6pUPDの割合は1-10%と小さいが、CMPから分化段階が一段階進んだMEPおよびGMPでは、6pUPDの割合が末梢血中の単球および顆粒球と同等に60-90%であることを明らかにした。 さらに、H24年度の研究計画に準拠して、CMP、MEP、GMPにおける6pUPD陽性分画および陰性分画をそれぞれソーティングし、RNA抽出後、マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を実施した。現時点で統計学的解析を行っており、特定分子の異常発現が確認された場合には次年度に計画している免疫不全マウスへの移植実験につながる重要なデータとなる。 以上から、平成24年度の研究内容は、当初の研究計画に概ね沿っており、次年度の研究計画へとつながる有用な結果を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
HLA欠失CMP分画が、正常CMP分画と比較して高い造血支持能力を有するか否かを明らかにするため、CMPにおける6pUPD陽性分画と陰性分画を免疫不全マウス(SIRPA変異型遺伝子導入マウス)へ移植し、各分画の造血支持能を比較する。また遺伝子発現解析により同定した造血制御関連遺伝子の機能をin vivoで評価する。このために、まず健常ドナーの骨髄CD34陽性分画に対して対象遺伝子のノックイン処理またはノックアウト処理を行う。ノックインには、対象遺伝子を組み込んだベクターを作製し、エレクトロポレーションにより特定分子を強制的に発現させる。ノックアウトには、対象遺伝子のsiRNAを作製し、対象遺伝子の発現を強制的に抑制する。上記処理を施した健常ドナーの骨髄CD34陽性細胞をSIRPA変異型遺伝子導入マウスへ移植し、造血制御関連遺伝子として同定した遺伝子の機能を評価する。造血能は、血液像とFCMを用いた骨髄および末梢血中有核細胞のフェノタイピングにより評価する。 また、CMPにおけるHLA欠失細胞と、MEP、GMPにおける欠失細胞の割合に乖離が認められるのは、寛解例においてもCTLによる幹細胞のセレクションが持続しており、CTLの標的となる自己抗原がMEP、 GMPよりもCMPにおいて高発現していることが原因と予測される。この仮説を検証するため、マイクロアレイ解析によりCMPにおいてMEP、GMPよりも強発現している遺伝子を抽出し、それらの蛋白のうち、我々が同定した再生不良性貧血のハイリスクアレル(HLA-A*0201, A*0206, A*3101,B*4002)によって提示されやすいペプチドをBIMASにより決定する。これらのペプチドに対するCTL前駆細胞が当該患者の末梢血に存在するか否かをELISPOTアッセイで検証する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画通りに予算を使用することができず、次年度分への繰り越し額が発生したのは、平成24年度に使用する予定予算の大部分を占める「アジレントオリゴマイクロアレイ」を、予定外に他研究室より譲渡されたことが大きな原因である。平成24年度に実施したマイクロアレイ解析は、譲渡されたこのアジレントオリゴマイクロアレイを使用した。その結果生じた当該研究費と、翌年度以降に請求する研究費と合わせて研究計画を示す。 CMP分画とMEP、GMP分画において6pUPDの割合に乖離が認められ、CMP分画においては6pUPDの割合が著しく低下していたことから、CMPにおける6pUPD陽性分画が6pUPD陰性分画と比較して高い造血支持能力を有する可能性がある。そこで、CMPにおける6pUPD陽性分画と陰性分画をSIRPA変異型遺伝子免疫不全マウスへ移植し、各分画の造血支持能を比較する。また、造血制御関連遺伝子の機能をin vivoで評価する。このために、健常ドナーの骨髄CD34陽性分画に対して対象遺伝子のノックイン処理またはノックアウト処理を行う。ノックインには、対象遺伝子を組み込んだベクターを作製し、エレクトロポレーションにより特定分子を強制的に発現させる。ノックアウトには、対象遺伝子のsiRNAを作製し、対象遺伝子の発現を強制的に抑制する。エレクトロポレーションキットおよびsiRNAの受託合成には40万円を使用する予定である。上記処理を施した健常ドナーの骨髄CD34陽性細胞をSIRPA変異型遺伝子導入マウスへ移植し、造血制御関連遺伝子として同定した遺伝子の機能を評価する。造血能は、血液像とFCMを用いた骨髄および末梢血中有核細胞のフェノタイピングにより評価する。動物実験に使用する機材の一式を新調するため、これに2,500,380円を使用する予定である。
|