近年、ヒトを初めとして多くの哺乳動物における全ゲノム配列の決定や、次世代シークエンサーの急速な進歩に伴い、われわれのゲノムに関する知見は劇的に進歩している。ヒトやマウスにおいてタンパク質をコードする遺伝子の同定が急速に進んでおり、その数は2万以上と云われている。一方、これらの遺伝子の大部分は機能不明であり、その役割を明らかにすることが急務となっている。 本研究課題において、研究代表者は複数のホモ変異ES細胞株を、血球分化を支持するストローマ細胞株であるOP9と共培養することにより、血球の分化・成熟に異常をきたす変異細胞株がないかのスクリーニングを行った。これらのマウス変異ES細胞ライブラリーは代表者の所属する研究室が独自に作製したものである。結果として、ある遺伝子(未発表データのため以後遺伝子Xと表記)のホモ変異ES細胞株において血球分化が著しく障害されていることを見いだした。この遺伝子Xについては、現在のところその機能や表現型に関する報告が全くなされていない。よってこのような遺伝子の機能を詳細に研究することは重要な意味を持つと考えた。 最初にin vivoの機能を解析するためにノックアウトマウスを作製したところ、遺伝子Xのホモ欠損マウスは胎生5.5日より胚の顕著な成長遅延を認め、胎生6.5日までに致死であった。遺伝子Xは発生の初期の段階で重要な役割を果たしていることが明らかとなった。よって遺伝子Xは造血系の発生以外にも重要な機能を有している可能性が高いと考えられ、今後より詳細な解析を行う予定である。 本研究課題においては、血球分化に重要な役割を有する遺伝子Xをスクリーニングにて見いだすことに成功した。現在まで多くの遺伝子の機能が未知のまま残されており、研究代表者のように新たな遺伝子の機能を同定することは、われわれのゲノムに関する知見に大きく寄与すると考えられる。
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