研究課題
申請者はこれまでに遺伝子搭載サイズに制限なく、自律複製する極小染色体である人工染色体ベクターの利点を生かし、血友病Aの細胞補充療法のための第VIII因子(FVIII:Factor VIII)発現ベクターの構築、及び移植細胞としてがん化の危険性がない安全なiPS細胞の作製を行ってきた。本研究目的は血友病モデルマウスの自己細胞からFVIII発現血管内皮細胞を作製し移植する、ゲノム補正した幹細胞操作技術からの自己細胞移植による補充療法を行うことである。血友病モデルマウスより1) iPS細胞を作製し、2) FVIII遺伝子搭載人工色体ベクターを3) iPS細胞に導入し肝芽細胞・血管内皮前駆細胞へ分化誘導する。4) 作製できた細胞を移植しその治療効果を検証する。血友病モデルマウス由来線維芽細胞からのiPS細胞作製については、微小核細胞融合法によるiHAC(初期化遺伝子搭載)ベクター移入によりクローンを取得できた。解析結果から、正常に近い染色体核型をもちES細胞同等の未分化マーカーの発現が観察された。一方でFVIII遺伝子をHACベクターへの搭載を行った。前述のiHAC誘導による血友病モデルマウスiPS細胞へ移入した。これらについてもクローンが得られ染色体解析の結果、宿主染色体に挿入される(傷つける)ことなくFVIIIを発現することができる血友病モデルマウスiPS細胞が完成した。現在、肝芽細胞・血管内皮前駆細胞の分化誘導を行っており既に良好な分化マーカー発現は確認している。血友病モデルマウスにおけるFVIII補充iPS細胞とのキメラマウス作出は行い、産仔を得ている。プロモータを改変させた血小板特異的にFVIIIを発現させるマウスiPS細胞(センダイウィルスによるiPS細胞)については、血小板への分化誘導とキメラマウス作出により機能的な改善がみられ(論文報告)、血友病における人工染色体を用いた遺伝子治療の有用性を示すことができた。
2: おおむね順調に進展している
今年度の実験計画通りであり、特に問題なく進められている。
FVIIIHACを保持するiPSの血管内皮前駆細胞及び肝芽細胞へ分化誘導後、FVIII発現細胞をモデルマウスへ移植し、長期治療効果を血漿中FVIII発現機能解析により評価する。肝芽細胞及び血管内皮前駆細胞への分化誘導については分化マーカー発現を確認済みなので今後この方法を用いていく。移植による表現型改善の確認について、血友病モデルマウスへの移植及び移植細胞の生着率を検討する。FVIIIタンパクに対する拒絶を抑えるために移植前、移植後にそれぞれ免疫抑制剤(IL-2/抗IL-2抗体のcomplex;長期間抗FVIII抗体出現を抑制できる)を投与する。前処置としてリコンビナントFVIIIを投与する。現実的な個体レベルでの治療モデルとしてFVIII搭載人工染色体ベクターを保持するマウスiPS細胞から血管内皮前駆細胞へ分化誘導し、これを脾臓または膵臓に異所性に移植する。これはヒトでの治療を想定した場合、放射線及び部分肝切除は侵襲性の上で大きな問題があること、また異所性に脾臓か膵臓移植であれば肝生着できるためである。上記と同様に表現型改善について検討する。
該当なし
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Biochem Biophys Res Commun.
巻: 431 ページ: 336-341
10.1016/j.bbrc.2012.12.096