研究課題
同種造血幹細胞移植後に発症する慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)に対して、インターロイキン2を少量投与することで、移植後Tregの恒常性を回復させ、慢性GVHDの症状を改善させえることが明らかになっている。IL-2療法をより患者個別的で、作用選択的にするためには、個々の患者の免疫状態に応じたIL-2投与法の検討が必須である。われわれは、マウス骨髄移植モデルを用いて、この問題を検討した。まず、野生型B6マウスに、IL-2を、低用量から高用量までのさまざまのdoseで2週間皮下注射し、リンパ球サブセットを検討した。その結果、高用量のIL-2では、Tregよりも活性化T細胞が増加する傾向が見られる一方で、低用量投与群では、Tregに選択的な増幅がみられた。低用量群では、TregでKi-67陽性細胞の増加がみられたが、この効果はほかのリンパ球亜分画ではみられなかった。重要なことに、低用量IL-2はTregの分裂を促すものの、この分画はCD62L陽性のナイーブ形質を保持していた。このIL-2によって増幅したTregを純化し、in vitroで抑制機能試験を行ったところ、対照群と同等の抑制能を示し、十分に昨日が維持されていることが確認された。次に、マウス骨髄移植モデルを用いて、移植後のTreg回復をIL-2投与によって促進させる実験をおこなった。興味深いことに、移植後早期にIL-2を投与したところ、IL-2によるTreg増加効果は限定的であり、実際GVHDはむしろ対照群に比較して増悪した。しかしながら、移植前処置を軽減すると、IL-2によるTreg増加効果が観察された。これらの結果から、IL-2投与によるTreg増幅効果は、投与IL-2の用量のみならず、投与されるホストの生体内炎症環境によって強く影響を受けることが、明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
Treg恒常性にはたらくIL-2を低用量投与することで、Tregを増幅させることが臨床から報告されているが、IL-2は多彩な生理活性を持つサイトカインであるため、患者によっては、重篤な副作用が認められている。このため、今後、低用量IL-2療法を、より患者個別的で、作用選択的にするために、個々の患者の免疫状態に応じたIL-2投与法を開発することが、今回の研究の目的である。この目的のために、今回われわれは、まず、野生型マウスにさまざまな用量のIL-2を一定期間投与し、投与量によるTreg増幅効果を検証した。その結果、高用量IL-2が活性化T細胞を増加させる一方で、低用量IL-2投与では、Tregが選択的に増加することが確認され、臨床からの報告を裏付けることができた。このIL-2によって増幅したTregのin vitroでの機能試験をおこない、実際に抑制活性を維持していることを確認することができた。また、骨髄移植後のモデルを用いて、ホストの炎症環境がIL-2によるTreg増幅効果に与える影響を検討したところ、強い前処置(放射線照射)後の移植では、低用量IL-2であっても、Tregの増幅が妨げられ、GVHDが悪化する所見がみられたが、弱い前処置後の移植では、Tregが増加する効果が確認できた。すなわち、われわれは現在までの研究において、これまで臨床観察からのみ報告されていたIL-2によるTreg増幅効果を、免疫学的背景の整ったマウス実験によって実証し、さらにこの効果は、投与IL-2の用量のみならず、投与されるホストの生体内炎症環境によって強く影響を受けることを明らかにした。以上より、われわれの目標に向けて、おおむね順調に研究は進展していると考えている。
IL-2によるTreg増幅効果は、投与IL-2の用量のみならず、投与されるホストの生体内炎症環境に影響されることが、これまでの研究で明らかになったが、今後の臨床応用へ向けて、生体内炎症環境を客観的に把握しうるサロゲートマーカーは不明である。通常T細胞(Tcon)の活性化抗原(CD25,CD69,PD-1など)や、T細胞の細胞内STAT5のリン酸化といった、細胞活性化マーカー、また、血清IL-2、可溶性IL-2レセプターなどの血清マーカーは、この候補となると考えている。ホストの炎症環境の強度をさまざまに設定するには、移植前処置になる放射線の照射量の調節により可能と思われるが、これ以外に移植細胞量の調節も必要かもしれない。さまざまな条件による移植での、サロゲートマーカーの変化と、Treg増幅効果、さらに臨床GVHDスコア/生存期間の検討から、IL-2投与法の個別化を可能とするメソッドの開発を進める。また、現在、投与IL-2と同様にTregに分裂刺激を与えていると考えられる低リンパ球環境(Lymphopenia-induced proliferation)の効果を検証するため、CFSE染色したT細胞の養子輸注実験を進めている。特にTregホメオスタシスに与えるPD-1発現を検討するために、PD-1をノックアウトしたマウスからの輸注も進めている。これらから、患者個別的低用量IL-2療法の臨床試験へ向けての基礎的知見が得られるものと考えている。
昨年度は、マウス実験のために、遺伝子改変型ヒトサイトカイン(IL-2)の購入を予定していたが、製薬会社から無償供与を受けることができたため、当初の見積もりよりも消耗品購入費を少なくすることができた。また大学院生は当初3人の予定であったが、2人となったため研究のスケールも調整することとなった。今年度は、昨年度にひきつづき、マウス、抗体といった実験に必要な基礎試薬の購入、さらに今年度から開始になるヒト臨床検体解析の抗体の購入を予定している。今年度より、大学院生が3名となるため、研究にかかる費用は昨年度よりも大きくなると考えている。また、ここまでの研究でいくつかの重要な知見が得られているため、今年度は、研究成果を学会にて発表し、討議することを予定しており、このための費用も予定している。
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Science Translational Medicine
巻: 5 ページ: 179-187
10.1126/scitranslmed.3005265.