研究課題
急性GVHDのマウスモデル(B6 into BDF1)を用いて腸幹細胞の障害メカニズムを検証した。今回の検証で腸幹細胞だけでなく腸幹細胞に隣接して存在するパネート細胞もGVHDの標的となり、障害されることを証明した。この知見は移植前処置をせずに大量の脾細胞を輸注してGVHDを誘導した場合にも認めたのに対し、GVHDを発症させずに移植前処置のみを行った場合には認めなかった。これはパネート細胞の障害が移植前処置には依存しないことを示す。パネート細胞はWntシグナルを提供して腸幹細胞の維持・増殖に不可欠な支持組織(ニッチ)を形成することが報告されている。今回の成果からGVHDによる腸幹細胞の障害が腸幹細胞に対する直接的な障害だけでなく、ニッチの障害を介した間接的な機序にもよる可能性が示された。上記のマウスモデル(B6 into BDF1)を用いて皮膚における組織幹細胞の障害を検証した。GVHDを発症したマウスから得られた皮膚組織のH.E.染色標本で皮膚GVHDの発症に伴って脂肪組織が減少する所見を認めた。同様の所見は慢性GVHDのマウスモデルであるB10.D2 into BALB/cの系から得られた皮膚組織でも認めた。脂肪組織に分化する脂肪前駆細胞は皮膚幹細胞のニッチを構成する事が報告されており、今回の成果から急性、慢性を問わず、皮膚GVHDにおいても組織幹細胞のニッチが標的となって障害される可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
腸幹細胞の障害メカニズムとして当初想定していなかったパネート細胞の障害を介した間接的機序の存在を示唆するデータを得ることでき、他の所見とあわせ論文報告できた点は評価できる。一方で皮膚GVHDにおいては組織幹細胞のニッチが障害されている可能性について言及できたが、組織標本上で皮膚幹細胞を同定する手法の確立はできておらず、今後の課題として残った。
腸幹細胞の障害メカニズムを分子レベルで解明することを目指す。具体的にはGVHDのエフェクター分子として知られる炎症性サイトカインや細胞障害分子(Fas、Perforinなど)の働きをブロックした時に腸幹細胞がどの程度障害されるかを定量的に評価し、注目したエフェクター分子がそれぞれどの程度、腸幹細胞の障害にかかわっているかを明らかにする。引き続き皮膚幹細胞をLgr5やCD34などをマーカーとして免疫組織化学染色やin situ hybridizationの手法を用いて同定する手法の確立を目指す。
マウスの購入や維持、研究試薬の購入など、今年度と同等の経費を必要とする。
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