免疫抑制剤はドナー由来の造血幹細胞を移植する患者が発症する移植片対宿主病(GVHD)を予防するのに使用される。一方で、造血幹細胞移植では重篤な合併症である血栓性微小血管症などの血管内皮障害がしばしば発症する。その血管内皮障害の病原因に、GVHD、放射線、免疫抑制剤が関与することが疑われるが、詳細な発症機序はわかっていない。本研究では、国内で使用される免疫抑制剤FK506に焦点を当てて、3次元培養による血管モデルを用いた血管内皮障害の分子機序の解明を目的に実験を行った。昨年度までの本研究結果から、1)臨床血中濃度のFK506は管腔構造の崩壊(管腔崩壊)と細胞死を誘導する、2)FK506による免疫抑制作用やアポトーシス実行因子であるカスパーゼの活性化は血管内皮障害の原因ではない、3)FK506は血管内皮細胞の生存因子であるERK1/2およびAktの活性を減弱させることにより血管内皮障害を誘導することを明らかにした。また、播種性血管内凝固症候群に使用される組換型トロンボモジュリン(rTM)が造血幹細胞移植時に発症する血管内皮障害を軽減することが臨床的に知られているが、その機序は明らかになっていないため、FK506による血管内皮障害をrTMが実験的に軽減するかをさらに解析した結果、4)rTMはFK506による管腔崩壊は抑制しないが細胞死を抑制する、5)rTMによるFK506誘導性の細胞死の抑制はFK506によるAkt不活性化の抑制が原因である、ことも昨年度までに明らかにした。本年度ではFK506の血管内皮障害に関与するタンパク質を解析した結果、FK506結合タンパク質(FKBP)のうちFKBP12.6ではなくFKBP12が管腔崩壊に関与する可能性が示唆された。
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