研究課題
レプチンはエネルギー代謝を調節する生理活性物質として知られているが、炎症を増悪させる作用を持つことも示唆されている。そこで今回我々は、炎症性サイトカインとしてのレプチンの作用について、関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)患者由来滑膜線維芽細胞(RA synovial fibroblasts:RSF)を用いて検討した。レプチンの存在下RSFを培養すると、レプチンの濃度に依存して、代表的な炎症性サイトカインであるinterleukin(IL)-1βおよびIL-6のmRNA発現の増加が認められた。この培養上清中のIL-6タンパク産生の亢進も認められたが、IL-1βタンパク産生の増加は認められなかった。RSFにレプチン受容体が発現していることを確認し、RNAiの手法を用いてレプチン受容体発現を抑制したところ、レプチンによるIL-6産生増加作用は阻害された。レプチン受容体下流には、JAK2によるSTAT3リン酸化を介した情報伝達経路が存在することが示されている。そこで、RSFにおいてレプチンがSTAT3をリン酸化するか否か検討したところ、レプチンによるSTAT3のリン酸化亢進作用が認められた。またJAK2阻害剤は、RSFにおけるレプチン誘導IL-6産生亢進作用を抑制した。これらのことから、レプチンはRSFにおいて、JAK2-STAT3経路を介してIL-6産生亢進作用を呈することが示唆された。今回得られた結果は、レプチンがRAの炎症を増悪させる炎症性サイトカインとして作用を有すること示した。レプチンがRAの主たる病変部位である滑膜組織において直接作用していることを確認したことから、レプチンを標的とした新たなRAの治療戦略の一助となる情報が得られた。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、レプチンが関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)患者由来滑膜線維芽細胞(RA synovial fibroblasts:RSF)のinterleukin(IL)-6産生を亢進するという作用を見いだしたことから、RAの病態形成におけるレプチンの作用機序のを明らかにするという研究目的の一部を達成することが出来た。これまでRSFにおけるレプチンの作用を検討した報告はほとんど無く、今回の研究でそれを示すこととなり、RAの病態形成機序の解明において有用な情報を得ることが出来た。
今後は、レプチンの炎症性サイトカインとしての作用について、より詳細な機序を明らかにしていく予定である。今年度までにレプチンがJAK2-STAT3経路を介してinterleukin(IL)-6産生を亢進する可能性を示したが、STAT3活性の阻害によって、レプチンのIL-6産生作用が果たして抑制されるか否かを明らかにするまでには至らなかった。また、JAK2阻害剤によって、レプチン誘導IL-6産生作用が完全に抑制され無かったことからも、JAK2-STAT3経路以外のシグナル伝達経路を介して、レプチンが炎症増悪作用を示すことも考えられる。これらの点を検討することで、RA病態形成におけるレプチンの作用をより明らかにしていきたい。
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