私たちの研究室で見出したSPACIA1は関節炎を増悪化しうる重要な因子であると考えられ、その機能解析と創薬標的としての評価を行っている。 1.SPACIA1複合体の同定 前年度までにSPACIA1が滑膜細胞において細胞周期制御因子であるCDK6のmRNA安定性を制御していることを明らかにし、それと平行してSPACIA1複合体の同定を進めてきた。アフィニティー精製については培養条件や刺激の有無、FlagタグSPACIA1過剰発現マウスの肝臓などを精製源として検討したが、最終的には大量の滑膜細胞の核抽出液を用い、イオン交換およびゲルろ過クロマトグラフィーによるタンパク質精製を行った。得られた画分はショットガン質量分析を行い、データベースによる解析の結果、百個程度の候補タンパク質を網羅的に同定した。そのうちの候補タンパク質についてはそれぞれのsiRNAを滑膜細胞に導入し、CDK6発現量を指標に機能面からSPACIA1結合因子の特定を進めている。 2.SPACIA1が関与する滑膜細胞増殖機構の特定と機能解析 SPACIA1が発現抑制するCDK6について、CDK6分子そのものが滑膜細胞増殖に及ぼす影響をMTT法により検証した。他のG1期細胞増殖関連因子の発現を抑制しないCDK6特異的なsiRNAによる発現抑制は、FBS刺激のみならずTNF-α誘導性の滑膜細胞増殖を有意に阻害した。続いて組織レベルにおいても検討を加え、ヒトのRA滑膜においてもCDK6が発現していることを確認した。さらにコラーゲン誘導性関節炎(以下、CIA)を適用したSPACIA1ノックアウトマウスの滑膜組織におけるCDK6の発現は野生型マウスと比べやや染色性が低い傾向は認められたが、顕著な抑制ではなかった。SPACIA1ノックアウトマウスにおいてもCIAを十分に抑制できなかったため、SPACIA1分子自体が創薬標的とはなり得ないと結論づけた。今後はSPACIA1の下流因子、まずはCDK6を制御することによる関節炎の抑制にフォーカスして検討を進めていきたい。
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