研究課題/領域番号 |
24791010
|
研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
河南 崇典 金沢医科大学, 医学部, 講師 (20350762)
|
キーワード | IgG4関連疾患 / プロテオミクス |
研究概要 |
多施設共同の前方視試験に登録された症例を、IgG4関連疾患診断のアルゴリズムに当てはめ、確定群、擬診群、準確診群、否定群に分けるとともに、疾患、臓器別にカテゴライズを行った。本研究では、IgG4関連疾患確定群の治療前後および健常人の血清を用い、疾患で特異的に変動するタンパク質群を、プロテオミクスの手法を用い網羅的に解析し、IgG4関連疾患の病因病態に関連するタンパク質の同定を行った。疾病特異的なバイオマーカータンパク質は極微量であり、微量成分を検出するには、血清中の高存在量タンパク質の効率的除去と、高感度の検出系が必要であると考えられた。そこで、前処理として抗体カラムを用い、高含有タンパク質の選択的除去分離および低分子量タンパク質の濃縮を行った。処理後の血清タンパク質について、「健常人vs 治療前」および「治療前 vs 治療後」の比較を行うため、血清タンパク質を蛍光標識試薬Cy2,Cy3,Cy5で標識し、2次元電気泳動による展開を行った。Cy標識されたタンパク質のゲル画像を、Decyder software6.5を用い、ディファレンシャル解析したところ、患者・健常人間、また、治療前後において、有意差(p<0.05)を持って発現変動を示すスポットが得られた。このうち1.2倍~3倍などの差があるスポットを選択し、質量分析およびWB、ELISAによるタンパク質同定を行った。その結果、炎症系因子の増加、免疫システム調節に関連する因子の変動が認められた。抽出されたタンパク質群の内、IgG4関連疾患の病因病態への関連が考えられる因子、また、バイオマーカー候補の因子について検討を行ったところ、IL-4とCD40刺激下で、IgE, IgG4へのクラススイッチをより選択的に増強させ、B細胞の、IgE, IgG4への分化を誘導するAlpha-1 antitrypsin(A1AT)の発現亢進と、CRP、IL-6値と相関し、また疾患活動性の指標の一つであるIgG値との相関を示すLeucin-rich alpha-2- glycoprotein(LRA2G)を見いだした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
血清中に存在する、極微量の疾病特異的な因子を検出するため、高含有タンパク質の選択的除去と、特異的タンパク質を検出する高感度の検出系の確立を行い、IgG4関連疾患治治療前後、および患者・健常人間で、有意差を持って発現に差異のあるタンパク質の抽出に成功した。タンパク質同定の信頼度が高いScoreが35以上、検出できたペプチド数が2以上、Cover率が1%以上のもののリスト化を行い、発現に差異のあるタンパク質のバリデーションを行った。抽出されたタンパク質群の内、IgG4関連疾患の病態・病因への関連が考えられる因子について検討を行い、IL-4とCD40刺激下で、IgE, IgG4へのクラススイッチをより選択的に増強させ、B細胞の、IgE, IgG4への分化を誘導するA1ATの発現亢進と、CRP、IL-6値と相関し、また疾患活動性の指標の一つであるIgG値との相関を示すLRA2Gを見いだした。LRA2Gに関しては、現在、実際の病態や、確診群、擬診群との比較を行い、マーカーとしての評価を進めている。また、IgE, IgG4へのクラススイッチに関連が示唆されるA1ATに関しては、Human Whole BloodのCD19ポジティブセレクションでB cellを分取し、96 wellプレート上にて、IL-4と、anti-CD40 mAbにて共刺激を行い、A1ATを各濃度にて添加し、A1ATのクラススイッチへの関与を確認した。現在、その機序について、検討中である。これまでの検討で、発現に差異のあるタンパク質の抽出と、そのリスト化についてはすでに作製済みである。そのリスト化された因子の相互関係解析とバリデーションについては、今年度以降、取り組む予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
IgG4関連疾患患者の治療前後で、有意差をもって変動したタンパク質の病態・病因への関連と、バイオマーカーとしての可能性の検討を行う。LRA2G は、患者vs健常人間で、有意に患者群で高い値を示し、治療により、その値を有意に下げた。また、治療前、治療後1M、6M、12Mの値の変動を確認したところ、治療前に示した高い値は、治療後、健常人と同等の数値に抑えられ、その後、継続して同等の値を示した。LRA2Gは、IgG4関連疾患の病勢と相関する可能性が示唆されている。次に、このLRA2Gが、実際にマーカーとして有用かどうかを確認する。これまでに、我々は、多施設共同の前方視試験に登録された症例を、IgG4関連疾患診断のアルゴリズムに当てはめ、確定群、擬診群、準確診群、否定群に分けるとともに、疾患、臓器別にカテゴライズを行った。今後、実際の病態や、確診群、擬診群との比較を行い、LRA2Gのマーカーとしての評価を進める。また、抽出されたタンパク質群の内、IgG4関連疾患の病態・病因およびクラススイッチへの関与が示唆されるA1ATの機能について検討を行う。A1ATはIgG4へのクラススイッチを選択的に亢進させる機能を持ち、この因子がAIDの転写を増強し、恒常的にクラススイッチを亢進させている病態が考えられる。AIDの亢進と、この因子の相関をReal time PCRを用い比較を行う。また、病態との相関についても検討を行う。また、個別の因子を解析するだけでなく、IgG4関連疾患の機序に関連する因子の相互関係を検索する。IgG4関連疾患治治療前後、および患者・健常人間で、有意差を持って発現に差異のあるタンパク質を同定し、そのリスト化はすでに終了した。疾患関連タンパク質の発現ネットワーク解析を行うため、発現スコアの高いグループを抽出し、IgG4関連疾患の機序に関連する分子経路を検索する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
LRA2G、また、A1ATを定量的に解析するには、それぞれのELISAが必要である。また、今回、確定群、擬診群、準確診群、否定群と多検体の解析が必要となり、必然的に、定量解析に必要なELISA、検出に必要な試薬消耗品費が高くなると考えている。同時に多検体のELISAによる解析を行うため、次年度に使用する研究費が生じた。 疾患特異的に変動するタンパク質群を同定し、またその因子の変動が個体差によるものでなく、実際の病態病因を反映しているものかどうかを確認するためには多検体の解析が必要となる。LRA2Gのマーカーとしての評価を検討するため、「健常人と患者」、「治療前と治療後」、さらには実際の病態や、確診群、擬診群との比較を行うため、ELISA、Western blott法による解析、免疫組織染色等、検出に必要な試薬消耗品など、一連の実験を行うための消耗品費の割合が高くなると考えている。また、IgG4関連疾患のクラススイッチへの関与が示唆されるA1ATの機能について検討を行うため、B cellの分取、in vitroで刺激を導入するためのサイトカインや阻害剤などの各種試薬、また、イムノグロブリンの分化誘導を確認するためELISAによる定量解析を行う予定である。
|