研究課題
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、細胞外環境中に拡散するウイルス粒子によるcell-free感染と、感染細胞から非感染細胞へのcell-to-cell感染の両経路を用いて標的細胞に感染する。近年、HIV 感染における感染経路の重要性が指摘されている。実際、cell-to-cell感染において、抗ウイルス薬存在下でもウイルス複製が起こり得ることが報告されている。そこで本研究では、両感染系における抗HIV薬の活性を詳細に解析することを目的として、蛍光タンパクを用いて両感染経路を区別して抗HIV活性を測定可能な評価系を昨年度までに構築した。そこで本年度はこれを用いて、各種抗HIV薬の活性評価を行った。その結果、すべての抗HIV薬で、cell-to-cell感染での低い活性が認められた。特に、インテグラーゼ阻害薬ではこの傾向が顕著であり、蛍光タンパクを指標としたHIV陽性率の比較において、cell-free感染をほぼ完全に抑制する高濃度の薬剤存在下においても、cell-to-cell感染では蛍光タンパクのシグナル強度は低下していたが、HIV陽性標的細胞は約3割残存していた。そこでHIV感染標的細胞におけるHIV DNAプロダクトを比較するために、セルソーターを用いて細胞を分取し、定量PCRにより解析した。その結果、HIV陽性標的細胞中のHIV組み込みDNA量は、インテグラーゼ阻害薬処理により約25倍低下した一方、非組み込みHIV DNAである1-LTR量は約6倍、2-LTR量は約30倍増加した。以上の結果から、インテグラーゼ阻害薬存在下におけるcell-to-cell感染で認められた弱い蛍光タンパクシグナルは非組み込みHIVに由来するものであった。HIVのcell-to-cell感染では、cell-free感染と比較して、1細胞あたりに伝播するウイルス量が多いことが知られているが、インテグラーゼ阻害薬存在下ではそれに比例して非組み込みHIV量も増加することが判明した。これはcell-to-cell感染の新たな特徴の一つであると考えられる。
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