トランスウェルシステムを用い、本菌滴下後、細胞層の透過経緯について観察した。本菌滴下15時間後に電位が下がり始めると同時に菌が透過することが判明したが、細胞傷害性も細胞生存率も変化がないことが明らかとなった。しかしながらスイリシン(SLY)ノックアウト株では36時間でも電位は下がらず、細胞傷害性はなく、細胞生存率は高いことが判明した。また、感染15時間後の細胞間隙蛋白を調べた結果、ZO-1、E-cadherinにおいて、著しく減少しているのに対して、SLYノックアウト株では減少していないのが判明した。共焦点顕微鏡、透過型電子顕微鏡で観察しても、細胞間隙に多く本菌が集まって抜けていることが確認された。
一方、組換えSLYを使い、同様にトランスウェルに滴下し電位の変化を調べると、SLY濃度依存的に電位は下がり、FITC-デキストランを透過させることが判明した。これはストレプトリジンOでも同様に示すが、LPS、不活化SLYでは示さなかった。同様に細胞間隙蛋白の発現をみるとSLY濃度依存的にZO-1、E-cadherinは減少することが判明した。加えてSLYはTLR4に刺激を与え、Ca2+を介しcalpainによって細胞間隙の結合を弱めることを明らかとした。 加えて、低濃度のコレステロール依存性細胞溶解毒素(CDC)は細胞骨格に関わるRhoAに刺激を与えるとの報告があり、SLYもCDCの1つであるためにRhoAの発現を調べた。この結果、SLY濃度依存的にRhoA、RhoBの発現を高めることが判明した。これにより細胞骨格にダメージを与えることが判明した。
本研究結果から、本菌が細胞に感染後、低濃度SLYにより細胞膜に穴が開き、SLYが細胞内に侵入し細胞骨格にダメージを与える。本菌が増えSLY濃度が高くなるとTLR4を刺激しCa2+を介してcalpainによって細胞間隙を弱める。この2つの働きによって弱った細胞に対して、本菌が細胞間隙に当たり細胞層の透過を引き起こすものと考えられる。
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